12月3日、米国大手紙の「ニューヨーク・タイムズ(NYT)」が、日本国内での朝日新聞に対する批判は「日本の右翼による新聞攻撃」だと断じる記事を載せた。慰安婦問題の誤報を訂正した朝日新聞を非難するのは不当な言論弾圧であり、安倍晋三首相がその先頭に立っているというのだ。
今回は、この記事の偏向ぶりと、その奥に垣間見える慰安婦問題に関する同紙の主張の変容を指摘してみたい。
(ニューヨーク・タイムズは12月4日付の社説でも、「日本の歴史のごまかし」という見出しで同じ趣旨の主張を述べているが、今回は前述の記事1本に絞って論評することとしたい。)
3日付のこの記事はニューヨーク・タイムズ東京支局長のマーティン・ファックラー記者によるもので、「日本の右翼が戦史を書き換え、新聞を攻撃する」という見出しが付けられていた。慰安婦報道の誤報の先駆けとなった元朝日新聞記者の植村隆氏にインタビューして、同氏が右翼勢力から不当な攻撃を受けているとする報道である。
この記事が描き出していたのは、日本の良識の代表である朝日新聞を、安倍首相をはじめとする右翼が危険な国粋思想に基づいて攻撃し、言論や人権までを弾圧しているという構図である。しかし、日本の現実から見れば、これはまったく倒錯した虚構の構図だと言える。
罪のない被害者として描かれる植村隆氏
記事を読むと、まず日本での朝日新聞をめぐる状況について以下のような記述があった。