蕎麦屋や和食店で、小さな「すり鉢」と「すりこ木」が出てくることがある。すり鉢のなかにはゴマやクルミなどの薬味が入っている。自分でお好みにすってくださいというわけだ。
料理を待つ間、ゴリゴリとやる。最初は押しつぶすようにして砕き、ほどよく細かくなったら、ぐりぐりとすりこ木を回す。だんだんと油がにじんできて、ほのかな香りが漂う。すりこ木が快調に回り出したら、ずいぶん細かくなった証拠。そうこうしているうちに料理が運ばれてくる。料理が来るまでのちょっとしたアトラクションだ。
「する」道具といえば、ふだんから家で使っているかどうかはさておき、多くの人はすり鉢とすりこ木を思い浮かべるのではないだろうか。「する」道具を調べていて、ことのほかすり鉢礼賛の記述が多いのに驚いた。
たいていは「あまり使われなくなったけれど」といったような前置きがある。それから「でも」と逆説がきて、そのあとに「いろんな料理に使える」「すり鉢ですると風味がいい」とすり鉢のよさが強調され、「ひとつあると便利」と締め括られる。