8月11日の欧米為替市場で、円高が急速に進行した。ただし、対円ではドル安になったが、対ユーロを中心に、円以外の多くの通貨に対してはドルが急上昇しており、全般的なドル安の動きではないことは、しっかり認識しておきたい(報道や解説の中には、そのあたりを理解していないものも散見される)。
この日に起こったのは、(1)前日の米連邦公開市場委員会(FOMC)声明文が景気認識を下方修正したこと、(2)中国の鉱工業生産などの景気指標が軟化したこと、(3)英イングランド銀行が景気見通しを下方修正したことなどから、世界経済の先行きに関する不安心理が強まり、投資マネーがリスク回避志向を急速に強めたということである。その結果、株安・債券高になったほか、為替市場では「逃避通貨」である円やドルに買いが入った。また、「逃避通貨」どうしである円とドルの間では、FOMCで事実上の追加緩和が決まったこと、ドルLIBORが低下を続けていること(8月11日のドル3カ月物は0.38438%に低下)、日銀が8月10日の会合で金融政策を現状維持としたことなどから、円が買われやすい地合いになっている。
東京市場が公式記録上で区切りとなる午後5時を数分過ぎた時点で、ドル/円相場は85円割れ。この日のロンドン市場では、84.72円まで円高が進む場面があった(1995年7月以来の円高水準)。85円の心理的な(さらにはオプション取引絡みで重要とみられている)節目を割り込んだ上に、昨年11月27日に記録した直近のドル安値である84.82円も下回ったが、一部で言われていたように、そこから急激にドル売りが加速するということにはならず、ニューヨーク市場の取引終了時点では85.30円前後に戻した。この間、ユーロ/円相場は一時109.61円まで円高ユーロ安になった。ユーロ/ドルは、冒頭でも述べたように、急激なユーロ安ドル高。8月11日朝方の東京市場では1ユーロ=1.31ドル台で取引されていたが、その後の米国市場では1.28ドル台までドルが買い進まれた。
8月11日の長期金利は欧米ともに、一段の低下。景気の先行き不透明感の一層の強まりと「質への逃避」、米国の利上げが一段と遠のいたという認識の広がり、さらには米FOMCが国債買い入れの上積みといった「量的緩和」的措置を今後実行するのではないかという思惑から、筆者が節目とみてきた水準を、はっきりと下回った。独10年債利回りは2.42%まで低下し、過去最低水準を更新。米10年債利回りは2.68%まで低下することになった。また、米30年債利回りは4%前後のもみ合いを脱して、この日は3.92%前後まで低下した。
一方、米国株は大幅安。ニューヨークダウ工業株30種平均は前日比▲265.42ドルで、終値は10,378.83ドル。米6月の貿易収支が▲498.95億ドルという大幅な赤字になったことも、これによって米4-6月期の実質GDPが大幅下方修正されるだろうという見方を通じて、株安・債券高を促したという。
米欧の長期金利が節目水準を下抜けたことで、金利低下は新たなステージに入ってきたと言わざるを得ない。だが筆者は、ここからさらに米欧さらには日本の長期金利低下が進むとしても、その持続性については懐疑的にみている。人口動態の違いなどを無視した米欧「日本型デフレ」シナリオの広がりと、FOMCによる一段の追加緩和期待は、市場がすでにかなりの程度「前傾」していることを示しているように思える。米国や欧州の景気・物価指標の内容をしっかり吟味していく姿勢が、引き続き肝要であろう。