香川県の高松に行った。香川県は日本で一番小さな県だそうだ。滑走路が1本きりの空港は、小ぢんまりとしていて可愛い。

 でも、小さいとはいえ国際空港で、ソウル、上海、台北への直行便も飛んでいる。185メートルの高台なので、冬になると霧が多いとか。せっかくそこまで飛んできたのに着陸できず、行き先を変更する飛行機もときどき出る。

 気候は瀬戸内らしく温暖で、海と山に囲まれた、いかにも住みやすそうな土地だ。台風はたいてい高知県が受けてくれるので、災害も少ない。優しい自然に育まれている土地の常として、人間が柔和。そして、皆、うどんが大好きだ。年越しにうどんを食べている家も多いというから年季が入っている。

高松が壊滅した空襲にも無傷で残った大名庭園

 高松は、瀬戸内海に面する港町のうち、一番本州に向かって開けた町だ。1910年以来、宇高連絡船が就航していたこともあって、四国の玄関口というか、瀬戸内海交通においても経済においても、中心的存在だった。

 おそらくそのためだろう、1945年7月4日の未明にアメリカ軍による大空襲を受ける。市街地の80%が焦土と化し、1359人が犠牲になった。

 町の真ん中に、栗林(りつりん)公園というのがある。国の特別名勝に指定されている文化財庭園の中で最大の広さを持つ公園、というよりも庭園だ。

 最初は1400年ごろ、仏教信仰の庭として造られたのが始まりで、その後、讃岐国の領主の生駒氏を経て高松藩の松平氏に受け継がれ、以来、明治維新までの228年間、松平家11代の下屋敷として利用された。

 前述での空襲では、周りはやられたが、栗林公園だけはほとんど無傷で残った。これは、とても偶然だとは思えない。空襲を命じていたアメリカ人の中に、栗林公園の価値を知っている人間がいたのではないか。

 日本三名園というのは、金沢の兼六園、岡山の後楽園、水戸の偕楽園で、栗林公園は含まれない。しかし、ミシュランの旅行ガイドでは、星が3つの最高位で、「わざわざ旅行する価値がある」場所となっている。

 行ってみて、その意味が分かった。栗林公園には隅から隅まで、見どころがコンパクトに詰まっている。背景にはぽっこりした紫雲山の緑が色濃く迫り、庭園内には6つの池と13の築山がある。

 その組み合わせは絶妙で、一歩一景と言われるだけあり、立ち位置が変わると、景色が様々に変化していく。そして、そのあいだあいだに奇石あり、茶室あり、滝あり、もちろん何十種類ものお花もあって、それぞれの季節を彩っている。とにかく、どこを見ても風雅。