前回(「電力会社を訴えてすべてを失ったフロリダの住人」)に続いて、アメリカで原子力問題を専門とする法廷弁護士、ダイアン・カレン氏のインタビューを掲載する。

 原子力発電所の設置や免許延長の許認可をめぐる訴訟を専門に手がける、米国では数少ない原発問題の専門弁護士である。スリーマイル島原発(TMI)事故の健康被害をめぐる訴訟を取材していて、原発への賛否を問わず、ジャーナリストや地元住民から「ダイアンに取材するといい」と彼女の名前をよく聞いた。

 TMI事故の健康被害をめぐる訴訟は、およそ2000件の提訴を数えながら、終結まで30年近くかかり、疫学調査は証拠採用されず、勝訴は1件もないという結果に終わった。力尽きて「和解金」を受け取って判決を待たずに裁判を終える住民が多かった。そこで結ばれる「守秘義務契約」の弊害についてカレン弁護士は指摘した。

電力会社が和解を秘密にしたがる理由

──守秘義務条項の入った和解がスリーマイル島原発事故の住民訴訟でも多く結ばれたと聞きました。社会にとって何が損害だと思われますか。

ダイアン・カレン氏(以下、敬称略) あなたはジャーナリストですから、当然守秘の内容を知りたいですよね(笑)。でも話してくれません。コミュニティが毒性物質と暮らしていかなくてはいけないのですから、それを知るのは公共の利益に関わる問題に決まっています。もし誰かが病気になったら、その内容を知らなくてはいけない。

 もしあなたが自治体の長だとします。あるいは行政委員会(日本の地方自治体議会に該当する)の長だったとします。もし住民が病気になり、企業を訴え、お金を得たとしたら、ほかの住民を守るために詳しい事情を知りたいと思いませんか? 情報のシェアは公共の健康(Public health)に密接に関わっています。非常に重要な問題です。私たちの環境には非常にたくさんの種類の汚染物質が存在します。民衆がそれについて教育されていることが非常に重要なのです。

 企業が和解金を払うのは、専門家の調査レポートや、法廷での証言が十分有効だからではないでしょうか。それが「口止め料」になってしまっていいのでしょうか。人々に害を与え、お金を払うことが「それがビジネスのコストなのだ」でいいのでしょうか。あなたの隣の家の人が病気になってもあなたがそれを知らないままでいるなら、あなたもまた病気になるでしょう。