先月25日、国際協力銀行は「海外展開支援融資ファシリティ」の一環として、ユニカホールディングス* ベトナム法人との間で融資金額140万米ドルを限度とする貸付契約を締結した。これは西武信用金庫との協調融資で、総額は200万米ドルだ(参考: 国際協力銀行プレスリリース)。

*本社: 東京都千代田区、各種電動ドリル用先端刃先工具及び建設用ファスニング工具の製造・販売業者

 この融資の対象は、日系中堅・中小企業者を対象としたホーチミン市内工場団地の建設・運営事業であり、そこでは現地裾野産業の担い手となる日本の中小メーカーの入居が期待されている。それに対して政府系銀行と信金が共同でバックアップしているというのが、今回のニュースの構図だ。

 改めてアジア周辺国を見渡してみると、人件費水準・インフラ整備状況・労務管理等の諸条件を冷静に考えれば、海外展開しようとする日系中小製造業にとってベトナムはほぼ唯一の現実的な選択肢なのかもしれない。

 本稿では、あらためてベトナム裾野産業とその主な担い手となり得る日系中小製造業者の今後のベトナム展開について考える。

多くの経営課題に直面するベトナム裾野産業

ベトナム南部にある地場機械加工メーカー工場の視察風景(写真提供: 筆者、以下同)

 「裾野産業」という表現は、多くの国で用いられているが、固有の定義はなく使用者の目的や解釈によって意味が異なる。その範囲は、狭義には部品等のみを製造する産業、また広義には製造業一般が含まれている。

 類似概念には、「関連・裾野産業」「下請け産業」「部品産業」「供給メーカー」等がある。これらの概念はすべて最終製品のための製造に必要な産業という点が共通しているが、それぞれ産業の範囲は違う。関連・裾野産業及び下請け産業は全てのサプライヤー産業をカバーする広い範囲を意味し、部品産業・供給メーカーは相対的に狭い範囲を示している。

 さて、ベトナムで「裾野産業」という用語が広まり始めたのは2003年頃であり、「日ベトナム共同イニシアチブ」という政策的枠組みにおける「裾野産業マスタープラン」(2007年7月、旧工業省策定)がそのきっかけだ。

 このマスタープランでは、繊維・縫製産業、皮革・製靴産業、電子・IT産業、四輪車の製造・組立産業、製造機械産業の5産業に関し、2020年を視野に入れた2010年までの基本計画が織り込まれた。

 しかしながら、裾野産業マスタープランで指定された5産業の現状を見れば、例えば、電子・IT産業では多くの電子部品が現地製造されておらず、IT関連のスペアパーツ・付属品も全て輸入だ。

 四輪車の製造・組立産業では、座席シートやプラスチック部品などシンプルな部品は現地製造されているが、全体の現地調達率は10%(セダン車の事例)程度にとどまっている。