2022年にサッカーのワールドカップが行われる予定のカタールのことが、昨年からドイツでしばしば話題になっている。それも凄まじい話だ。
カタールは、ワールドカップのおかげで建築ブームになっている。そこへ多くのインドやパキスタンやネパールの極貧の人たちが、悪いエージェントに偽りの労働条件でおびき寄せられているという。
3カ月働いて報酬は3000円未満――カタールの壮絶な労働搾取
到着したとたんパスポートを取り上げられ、ろくな宿泊施設も食事もなしに工事現場で奴隷のようにこき使われ、死亡者まで出ている。死なないまでも、賃金は大幅にごまかされ、抗議をすると、パスポートを破棄するぞと脅される。
結局、何カ月もの労働はタダ働きとなり、家に戻ると、最初に借金した飛行機のチケット代も返済できないという惨状だ。
こういう外国人労働者搾取の話は、先のロシアのソチ・オリンピックのときにも伝わってきていた。ただ、カタールの場合は、状況がさらに悲惨だ。なぜかというと、気候が決定的に違う。
3カ月働いて、どうにか逃げ帰ったインド人の男性2人の話は極めて残酷だが、まるで嘘だとも思えない。それによれば、8時間労働で月給240ユーロ(約3万3000円)という約束だったのに、到着した時点で月給は180ユーロ(約2万5000円)に減給、結局、1日12時間、週6日働かされた。
宿舎は1部屋に20人で、トイレが1つ、冷房なし。現場では水も不足し、肌は激しい太陽に焼けただれた。カタールの夏の気温は50度を超え、雲一つない。炎天下に立っているだけでも過酷な環境だ。
私は昔、イラクに住んでいたので、その過酷さだけは保証できる。カタールはそれに加えて湿度も高い。その劣悪環境の下で、安全基準も労働基準も無視した肉体労働が行われているのだ。
しかし、そのインド人男性が3カ月後に手にしたのは、たったの20ユーロ(約2700円)。そもそも、炎暑の下での土木作業で月給240ユーロ、あるいは180ユーロというのが信じがたいほどの薄給だが、20ユーロとなると、ドイツでは小学1年生の1カ月のお小遣いだ。
ただ、パスポートはない、労働許可証はない、医療保険も、労災も何もない。そのインド人たちが働いた事実も、しいて言えば、そこに存在した事実も証明できない。そのうえ、働いたとしたら不法労働となる。