世界最大のロシアのガス会社ガスプロムと中国最大手の石油会社CNPC(China National Petroleum Corporation)は上海にて5月21日未明(現地時間)、ロシアから中国向けパイプライン(P/L)天然ガス長期供給契約に調印しました。
ウクライナ問題を巡り欧米と対立しているロシアのウラジーミル・プーチン大統領にとって、今回の露・中ガス合意は大きな政治的勝利となりました。しかしロシアにとって経済的勝利になり得るのかどうかは、あくまで今後の露・中双方の努力次第となりましょう。
今回の最大の争点はもちろん価格ですが、価格水準は品質・納期・支払い条件とも密接に関連しています。マスコミ報道では価格のみが脚光を浴びていますが、価格は未発表です。
本稿では価格決定の一要因たる納期に焦点を合わせ、今回の露・中天然ガス供給契約交渉に関わる過去の経緯、今回の契約調印に至る背景、日本への影響などを考察してみたいと思います。
露ガスプロムと中国CNPC/天然ガス供給交渉経緯
プーチン大統領は5月20日、上海にて開催される信頼醸成サミットに出席するため中国を訪問。今回のプーチン大統領訪中時の注目点は、下記2つでした。
● ロシア極東から中国向けパイプライン(P/L)天然ガス供給契約が調印されるかどうか?
● ロシアから中国向け最新鋭武器輸出(スホーイ35戦闘機やS-400対空ミサイルシステムなど)の売買交渉が成立するかどうか?
ロシアから中国向けP/L天然ガス輸出交渉は両国間の長年の懸案事項であり、本件は2006年から本格的交渉が続いていました。なぜ2006年かと申せば、2006年1月に露・ウクライナ間にて最初の天然ガス供給紛争が発生。同じ性格の紛争が2009年1月にも再発。さらに今回のウクライナ紛争を経て、ロシアは東方向け天然ガス供給を真剣に検討してきたのです。
本稿ではまず、この露・中天然ガス交渉の経緯を概観したいと思います。過去の経緯は下記のとおりです。
●ガスプロムとCNPCは2006年3月より、ロシアから中国向けP/Lによる天然ガス供給交渉で基本合意に達し、以後、懸案の価格交渉を継続している。ガスプロムのミーレル社長は2013年末までに合意を目指すと言ってきたが年内合意に至らず、2014年に持ち越しとなった。
●ガスプロムと中国CNPCは当初、2本の天然ガスP/Lルート(西ルート・東ルート)による年間計680億m3の天然ガス供給を交渉してきたが、2014年4月現在での供給ルートは、東ルート+年間供給量380億m3を対象として交渉中。
●交渉開始当初、ガスプロム側は当時の欧州向け天然ガス価格水準約250ドル/千m3を主張したのに対し、中国側の提示価格は125ドル/千m3であった。プーチン首相(当時)は2011年10月11日、2日間の予定で訪中し、懸案の対中向け値差問題を協議・合意する予定であった。このプーチン首相訪中直前の天然ガス価格は、ロシア側希望価格約350ドル/千m3、中国側希望価格約250ドル/千m3であり、1000m3当たり約100ドルの価格差となっていた。
●サハ共和国チャヤンダ・ガス田からベラゴールスク経由(対中分岐点の)ブラゴベーシェンスクまでの幹線P/Lの距離は約2300キロ、ウラジオストクまでは約3200キロ。将来、イルクーツク州コビクタ・ガス田からチャヤンダ・ガス田まで幹線P/Lを接続する構想もあり、この間の距離は約800キロ。この場合、ウラジオストクまでの幹線P/Lは総延長で4000キロとなる。
●プーチン大統領は、ガス田開発とP/L建設総工費は550億ドルに達する見込みと発言。ガスプロムにはこの構想を実現する資金はなく、中国側から前金受領が必要となる。
●チャヤンダ・ガス田を開発しないと、プーチン大統領の「東方政策」は実現しない。
●今年1月5日付英FT(フィナンシャル・タイムズ)紙は「中・露国境渡し360~400ドル/千m3で価格合意は近い」と報道。