『ひらめきはカオスから生まれる』(日経BP社、2014年2月)は、実に面白い本だった。著者は、経営コンサルタントのオリ・ブラフマン氏とUCバークレー・ビジネススクール講師のジューダ・ポラック氏の2人である。
カオスという言葉からは、秩序のない状態や、無計画で無目的な行動など、ネガティブなイメージが思い浮かぶ。しかし、この本によれば、カオスこそが人を有能にし、社会に革命を招くという。
そのプロセスは次の3段階からなる。まず、カオスは、「余白」をつくり出す。次に、それが「異分子」の入り込む余地となる。そして、そこから思いもよらぬ結果(ひらめき)が生まれる。
この現象を著者は、「計画されたセレンディピティ(偶然)」と呼んでいる。この本には、その具体例が満載されている。本稿では、まず、その中から2つの代表例を紹介する。
その上で、フラッシュメモリに関して、東芝はNANDを基幹事業として成長させることに成功しているのに対し、日立製作所のフラッシュメモリAG-AND(実は日立にもフラッシュメモリがあった!)は尻すぼみに終わってしまったことを、カオスの視点から論じる。
1匹のネズミがもたらしたルネサンス
1348年、黒死病(ペスト)を宿したノミを背に持つ1匹のネズミが、イギリスの貿易港の1つ、ブリストルに上陸した。これが、中世ヨーロッパに大混乱を引き起こした。ネズミが運ぶノミが媒介して、ペストがヨーロッパ中に蔓延したからである。
ノミに食われると、高熱を発し、身体が衰弱し、心不全や体内出血などをきたし、約10日で死に至る。ノミに食われる以外にも、患者の血液による感染や咳を介した飛沫感染により、人から人へと容易にペストは拡大していった。