この連載も3年目に入っていますが、グローバル人材の定義やその育成については度々ご紹介してきました。今回は改めてなぜそのような人材が必要なのかを、これからの企業や社会のあり方を示唆する2つのリポートを通して考えたいと思います。

「マネジメント2.0」が提言する企業経営のあり方

 2009年4月号のハーバード・ビジネス・レビューに、「マネジメント2.0」というテーマが掲載されました。

 シリコンバレーの非営利研究機関「マネジメント・ラボ」がヘンリー・ミンツバーグやピーター・センゲをはじめ総勢二十数名の有識者を集め、これからの企業経営のあり方について議論。その結果を踏まえ、新しい時代へ向けて提言された25の課題が紹介されています。

「マネジメント2.0」の提言に参加したピーター・センゲ博士(ウィキペディアより)

 その特徴は、活力や創意、連帯感といった人間らしさを排除する従来型のマネジメント中心の組織ではなく、人間味あふれる組織を標榜していることです。

 そして、その中には、これまでの利益偏重主義からのシフトを示唆する重要なメッセージを読み取ることができます。以下に「マネジメント2.0」の主要なポイントを記します。

●経営層がより次元の高い目的を果たす

 「経営層は、理念と実践の両方において、社会的に意義ある高尚な目的の達成に向けて邁進しなければならない」

 英エコノミスト誌でも2013年のグローバルトレンドの1つとして「利益から目的へ」を掲げているほど、企業の存在意義を考える上で目的を重視する傾向が強まっています。「手段はすべてそろっているが、目的は混乱している」とアインシュタインは現代社会への警鐘を投げかけていました。

●コミュニティの一員あるいは企業市民としての自覚をマネジメントシステムに反映させる

 「業務プロセスや業務慣行を定めるに当たっては、ステークホルダー間の相互依存性を考慮に入れる必要がある」

 企業を社会の公器と捉え、周囲といかに良好な関係を構築するかという関係性資本を高める必要があります。いわゆるソーシャルキャピタル(社会の信頼関係、規範、ネットワークなど)が豊かな企業は、持続可能性が高いと言えます。

●経営哲学を根本から考え直す

 「効率以上の何かを実現するには、生物学、社会科学、神学など幅広い領域から教訓を導き出すことが求められる」

 社会善・共通善(コモングッド)を希求することが企業の社会的責任であると考えると、社会のエコシステム(生態系)への理解がないと企業理念に哲学は生まれません。