「おいおい、ピンクレディかよ」、と思わず突っ込みたくなる事件が起きた。

 中国人民解放軍サイバー戦部隊の将校5人が米国で起訴された。しかも、FBIが最も危険視するサイバー犯10人の「ウォンテッド(Wanted、お尋ね者、指名手配)」中で上位を独占している。

 果たしてこれは「ルビコン」なのか、それとも米国の対中政策は変わらないのか。今回も筆者の独断と偏見にお付合い願いたい。

事件の概要

米NSA、ネット未接続PCも遠隔監視 米紙

米国へのサイバー攻撃を監視する米国家安全保障局(NSA)本部〔AFPBB News

 今回の事件はかなり大きく報じられた。

 JBpressでも既に良質の記事がいくつか掲載されており(『米国が中国軍人5人を「サイバー窃盗」で起訴』『人民解放軍将校5人を起訴、ついに「ルビコン」を渡った米国政府』)、いまさら筆者が事件の背景を詳しく書く必要もないほどだ。

 ここでは各種報道を踏まえ、事実関係についてのみ、ごく簡単にまとめておきたい。

●5月19日、ペンシルバニア州西部の米連邦大陪審は、サイバー攻撃で米企業にスパイ行為を行ったとして、中国人民解放軍のサイバー戦部隊61398部隊(『尖閣よりホットな米中サイバー紛争』)」の将校5人を起訴した。

起訴状では、被疑者5人が2006~2014年に原発大手ウェスティングハウス、鉄鋼大手USスチール、アルミ大手アルコアなど5社と労働組合にサイバー攻撃を行い、商業上の機密情報を盗み取ったとされた(ちなみに、米国司法省のHPのヘッドラインには「U.S. Charges Five Chinese Military Hackers for Cyber Espionage Against U.S. Corporations and a Labor Organization for Commercial Advantage」とある)。

●これに対し、中国外交部報道官は、起訴内容は「米国の捏造」だとして「起訴撤回」を求めるとともに、米中間で設置されたばかりの「サイバーセキュリティー作業部会」の活動中止を表明した。

 起訴状などで示されたサイバー攻撃の手口、対象などはどれも既知のもので新味はない。

 これまでと異なる点は、中国側のメンツを尊重し水面下で働きかけてきた米国政府が、今回は「正式起訴」しかも「サイバー最重要犯」の「公開指名手配」という、後戻りのできない措置に踏み切ったことだろう。

2年間の周到な準備

 起訴状によれば容疑者は次の5人。起訴する以上は、当然人定確認もそれなりにやっているはずだ。

 以下を見れば、いつもは荒っぽい米国司法当局の仕事が今回は意外に丁寧であることが分かるだろう。中国側はこれを「捏造」だと否定するが反論はしていない。中国の主張にはやはり無理があるようだ。