日中海軍間のレーダー照射「紛争」が日本で大きく報じられていた頃、米中間でも水面下でホットなサイバー「紛争」が勃発していた可能性がある。今回は近年ますます過熱するサイバー空間での米中対立につき最新状況をご紹介しよう。

NYTを後追いする日本メディア

「中国軍がハッキングに関与」、米セキュリティ企業が報告

人民解放軍のサイバー攻撃部隊が入っているとされる上海近郊の高橋にある12階建てビル〔AFPBB News

 対米サイバー攻撃「人民解放軍主犯説」が浮上したのは米国東部時間の2月18日。「マンディアント(Mandiant)」という米ネット・セキュリティ企業が74ページもの詳細な報告書を発表したのが発端だ。

 概要は欧米メディアが既に報じている(ロイターブルームバーグCNN)が、中でも米国内の重要インフラ設備も攻撃対象となり始めた点は気にかかるところだ。

 同社から報告書を事前に入手していたニューヨーク・タイムズ(以下、NYT)の記事は充実していた。上海を本拠とする解放軍秘密サイバー部隊(61398部隊)が100社以上の米企業などから製造工程など大量の秘密データを盗み出していたことを詳細に報じたのだ。

 もちろん、これには裏がある。過去数カ月間、NYTなど米国企業は中国からの執拗なサイバー攻撃に悩まされていた。その調査のためNYTが雇った業者がほかならぬ「マンディアント」社なのだ。典型的な「出来レース」だが、そこは「魚心あれば水心」ということだろうか。

 ちなみに、マンディアント社の最高経営責任者(CEO)はケビン・マンディア(Kevin Mandia)という男。

 ジョージワシントン大で科学捜査学修士を取得した情報セキュリティーの専門家で、以前はレッド・クリフ・コンサルティング(Red Cliff Consulting)なる会社を経営していたが、2004年にマンディアント社を設立。この業界では結構有名なのだそうだ。

 ただし、このNYT記事には問題もある。報告書が解放軍最精鋭秘密サイバー部隊の個々の要員を「初めて特定した」かのように書いてあるからだ。確かに、同報告書は61398部隊の3人の要員につきコードネームを用いて詳しく書いている。

 だが、これは若干誤解を生む表現だ。後述するように、解放軍サイバー部隊につき詳細に調べた報告書は、何もマンディアント社が最初ではないからだ。それにしても、日本大手メディアが「後追い報道」を始めたのは2月20日。相変わらずサイバーの感度は鈍い。

過去半年間の米中サイバー紛争

 今回の解放軍「主犯説」記事は恐らく過去半年間の米中サイバー紛争を締めくくるものだ。以下のクロノロジーをご覧頂きたい。一連の動きを中国側から見ると、この間米側が強烈な対中サイバー報復措置を繰り返していただろうことが行間から感じ取れる。

【以下の個々の動きについては、いつもの通り、筆者の独断と偏見で、「中国側ならこう考えるだろう」と思われるコメントを付記してみた】