国賓として米国のオバマ大統領が来日したが、それに関連した報道を聞いていると、日本から果断な決断力が失われてしまったことがよく分かる。今回の訪問の最大の課題はTPP交渉を軌道に乗せることにあった。特に農業分野での対立の解消に関心が集まった。

 米国は日本にコメ、小麦、砂糖、乳製品、食肉に関する関税を撤廃することを求めている。ただ、報道によると、米国は早い段階からコメ、小麦、砂糖に関しては関税撤廃を諦めたようだ。その結果、舞台裏で熾烈な交渉が行われることになったのは食肉と乳製品、特に豚肉であったと報じられていた。関税ゼロか1桁台を要求する米国と現状に近い水準を譲らない日本との対立である。

 交渉は共同宣言発表の日の朝までもつれ込んだ。コーヒーを飲みながらの徹夜の交渉の中で、米国側が「関税交渉が不調に終われば、共同宣言の発表を延期することもある」と日本側を脅す場面もあったという。共同宣言には尖閣列島防衛に関連する文言が盛り込まれていた。しかし、結局、妥協が成立することはなかった。

 オバマ訪日というクライマックスを迎えても、TPP交渉が進展することはなかった。その結果、もはやTPPが早期に妥結することはない。それはWTOと同様に漂流し始めた。

日本の畜産業は「不利」ではない

 このような事態を迎えて、これまでに何度も発言してきたが、ここでもう一度言っておきたいことがある。それは、現在、牛肉や豚肉の生産が装置産業化しているという事実である。これは特に豚肉において著しい。豚肉は配合飼料を用い、巨大な豚舎で生産されている。それは、多くの人が思い描く牧歌的な農業とは大きく異なっている。

 日本の農家が保有する農地は少ない。そのために、米国に比べて圧倒的に不利な状況にあると言われるが、工場のような豚舎で生産する豚肉に農地の広さは関係ない。国土が狭いから日本の自動車産業が米国に比べて不利だ、などといった議論がないように、豚肉を生産する上で日本は決して不利な国ではない。

 日本がヨーロッパの小国デンマークから大量の豚肉を輸入している事実をご存じだろうか。ドイツと並んでデンマークでは豚肉の生産が盛んだが、デンマークは豚肉の生産性向上に努めて、良質の豚肉を広く世界に輸出するようになった。それは遠く離れた日本にまで輸出されている。