日米欧の先進国でデフレ懸念が強まっている。それに対して新興国、とりわけ中国ではインフレの再燃が懸念されている。

 中国の2010年上期の消費者物価指数は2.6%の上昇だった。これは許容範囲と言えるが、食品価格は5.5%上昇し、明らかに危険水域に入っている。

 2010年3月に開かれた全国人民代表大会(国会に相当)の記者会見で、温家宝首相は「今年は大変複雑な1年になる」と述べた。少なくとも現在の状況を見ると、温家宝首相の言う通りになっている。

 具体的に見ると、食品価格は急騰しているが、家電など工業製品の価格は0.6%の上昇にとどまり、モノによってはデフレにある。また、不動産価格は高止まりしているのに対して、株式市況は落ち込んだままである。

 ここで悩ましいのは、インフレ懸念を払拭するために金融引き締め政策を実施すべきか、それとも、今のままの金融緩和を続けるかである。

 経済成長率は、第1四半期の11.9%から、第2四半期は10.3%に低下している。中国経済を取り巻く外部環境を考えれば、下期の経済成長は追加的な経済政策を実施しなければ、徐々にスローダウンしていく可能性が高い。

 それを受けて人民銀行(中央銀行)は、下期の金融政策として適度な金融緩和を続けていくとアナウンスしている。

食品価格が上昇している隠された理由

 一般的に、インフレが再燃するのは、マネーサプライの過剰供給に伴う需要増によるものと思われる。現在の中国経済を考察すれば、確かにマネーサプライは過剰であり、それによってインフレが再燃していると考えられる。

 しかし、消費者物価指数が3%以内という現実から考えれば、インフレは社会の安定を脅かすほど深刻化していないはずである。

 ここで、注目すべきなのは、やはり食品価格の上昇である。

 ここ数年、中国の農業は深刻な凶作に見舞われておらず、食糧の供給にそれほど大きな問題は生じていない。では、なぜ食品価格が大きく上昇しているのだろうか。

 実は、中国政府もその実態をよく把握していない。食品価格が急騰したのは投機によるものだという推論もある。昨年来、ニンニクや緑豆(モヤシの原料)の価格が急騰したのは、食糧買い付け企業の投機と主要企業のカルテルによる価格操作があったと見られているのだ。