もちろん上を向いて歩いた方がふさいだ気持ちは晴れるのだけれど、ときには地面を見て歩いていたって、思いもかけない幸運に遭遇することがあるようなのだ。

 出合いは、ある日突然やって来た。和田一郎さんは、唐突に、そして運命的に“それ”に出くわしたのだった。

「サラリーマン人生に失敗したと思っていた」

 和田さんはネット通販会社ICHIROYA(大阪府富田林市)の社長である。中古着物、アンティーク着物、着物生地のネット通販サイト「ICHIROYA」を運営している。

 当初は海外向けに特化して販売していたが リーマン・ショックを機に国内向けの販売も並行して手がけるようになった。約20人のスタッフでサイトを運営し、2013年は約2万3000点の着物と生地を販売。2億円近くを売り上げた。現在、日本最大級の中古・アンティーク着物通販サイトの1つである。

 和田さんは脱サラして今の商売を始めた。2001年1月、和田さんはそれまで19年勤めた百貨店を退社した。42歳のときだった。「起業」を思い立って会社を辞めたわけではない。前向きで希望に満ちた退社ではなかった。むしろ敗残兵のようにぼろぼろになってうちひしがれた気持ちで会社を辞めたのだった。

 「僕は本当にサラリーマン人生に失敗したと思ってたんですよ。会社に残らせてもらってなんとか生活することはできるだろうけど、これから先なんも目標なしで生きていかなあかんのかな、どうやって生きていったらいいのかな、というところまで追い込まれた。そこまで追い込まれたから、辞める覚悟がついたんです。

 30代までは僕も選抜から漏れていなかった。ところが、知らないうちにだんだん同期と差がつき始めていました。自分では仕事ができるつもりで突っ走ってきたんだけど、周りから見たら僕は決して成熟した組織人ではなかった。だから今考えてみたら選抜から漏れるのは当たり前だったんです。

 でも、僕が仕事に傾けていた精力は、あまりにも大きなものでした。課長の時は休みは月に2回ぐらいで、それこそ歯ぐきから血が出るくらいまで働いていました。ああ、僕の評価はこういうもんなんやと気づいたとき、仕事にすべてを懸けていた自分との折り合いがつかなかったんですね。

 能力的にも限界を感じていました。将来、僕は店長になりたいかというと、それほどなりたくはなかった。むしろなれないだろうという思いがありました。自分には大きな会社の組織を動かしていく能力はないんちゃうかな、自分には向いてないな、ということを、いろいろなタイミングで思い知らされていました。だから、もうここにはいられないなと」

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