政府は昨年12月17日、「国家安全保障戦略」「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画(平成26年~平成30年)」の「安保3本の矢」を公表した。(以下、「安保戦略」「新大綱」「新中期防」)

 「安保戦略」は昨年発足した国家安全保障会議(以下「NSC」)が策定したものであり、我が国の安全保障に関する基本事項を示すものである。米国、英国、豪州などでは既に策定されているが、我が国で初めて策定された歴史的文書と言ってよい。

文章化されたことがなかった「安保戦略」

 戦後、日本で「安保戦略」が文章化されたことはない。昭和32(1957)年に閣議決定された「国防の基本方針」が唯一これに代わるものであったが、文字通り基本方針を示す280字余りのスローガン的文章にすぎず、国家の包括的、総合的な安全保障戦略を示すものとはなり得なかった。

 外交政策、防衛政策を中心とする国家安全保障政策について、戦略的、体系的に取りまとめたことにより、我が国の安全保障政策について国民の理解を深めるのに役立ち、海外に対しては透明性をもって我が国のビジョンを示すことができる。こういう意味でも、安保戦略策定は画期的である。

 今回の安保戦略では、日本の国益を「平和と安全、更なる繁栄」と定義し、「日本の平和と安全は一国では確保できず、国際社会も日本が一層積極的な役割を果たすことを期待している」との認識の下、「国際協調主義に基づく積極的平和主義」を基本理念とした。

 近年の中国の対外姿勢、軍事動向、及び不透明性を「国際社会の懸念事項」とし、また北朝鮮の核・ミサイル開発など、大量破壊兵器等の拡散の観点から「国際社会全体にとって深刻な課題」との認識を示している。

 日本周辺の脅威の高まりに対しては、日本の安全を確保するため、経済力・技術力・外交力・防衛力など国家の諸力を結集した戦略的アプローチが必要との認識の下、「能力・役割の強化・拡大」「日米同盟の強化」「パートナー諸国との外交・安保協力」「平和と安定への積極的寄与」「地球規模課題への協力強化」「安保を支える国内基盤強化」を具体的に挙げ、国益を守る国家意思を明示している。

 今回の安保戦略は、ほとんどが首肯でき、大いに評価したい。ここでは、あえて1点だけ指摘しておきたい。

 領有権問題に関し「純然たる平時でもない有事でもない事態、いわばグレーゾーンの事態が生じやすく、これが更に重大な事態に転じかねないリスク」を指摘し、「不測の事態にシームレスに対応」の必要性が述べられているのは評価できる。

 だが、この対応を阻害しているのは装備でも人の問題でもない。有事と平時を明確に区分した冷戦対応の現行法制に原因がある。現下の安全保障環境に適合すべく防衛法制を改善することは喫緊の課題なのである。