被災地でいま急がれている除染作業ですが、現場の作業員の多くは、震災前には原子力発電所の作業員でした。彼らは、そして彼らを雇う企業は正義でしょうか、悪でしょうか。医療にもつながる社会矛盾について現場で得られた知見を述べてみます。
除染作業員と医療保険
先日、ある除染作業員の方が緊急入院されました。詳細は伏せますが、少し専門的な検査と治療が必要な病態となったため、大学病院へ転院を依頼することとし、快く受けていただきました。早速転院手続きに入ろうとしたところ、スタッフの1人に声をかけられました。
「先生、この方、医療保険を持っていないので私費診療になってしまうんですが、どうしましょう・・・」
迂闊なことに、私は入院の時点で患者さんの医療保険を確認していなかったのです。事務手続き上の問題も生じ得るため、慌てて先方に電話をし、その旨の連絡ミスについてお詫びをしました。
「あぁ、作業員の方、よくそういう方いますよね。保険に入るのを面倒くさがる方、多いんですよ」
と、先方の先生は特に驚いたふうでもなく転院を引き受けて下さいました。
幸いこの患者さんはその後良くなられたそうなのですが、私は「そういう方がよくいる」という先方の言葉に少なからずショックを受けました。私自身はテレビや新聞などを見て、除染作業は県や国が推進している事業、というイメージを持っていたため、作業員はすべて必須で医療保険に加入しているのだと思い込んでいたのです。
しかし、他の医師の話によれば、作業員の医療保険は必ずしも強制加入ではないそうです。加入は任意と言われ、加入すれば保険料を払わなくてはいけない、という説明を聞かされれば、普段健康な、あるいは自覚症状のない多くの方々は、保険料を惜しんで加入しないという選択をするのではないでしょうか。
除染作業は「悪徳業者」か?
その後さらにいろいろな方にお話を聞いてみたところ、除染作業の現場は企業で言うところの「7次受け」くらいの下請け業者になるのだそうで、仲介料の搾取もさることながら労働の質の保証に関しても管理がし切れないのが現状だとのことでした。
当然地域の治安の問題も生じています。作業にいらしている個々人を差別するわけではありません。しかし収入格差・生活保障の格差はそのまま犯罪率の上昇へとつながることは事実です。
実際に、除染作業員のリクルート方法と労働環境が海外で報道され、反響を呼んでいます(1)。このニュースでは労働者の搾取の構造、として報道されており、「なぜ日本国民は黙っているのだ」という書き込みも多く見られます。