12月17日、ドイツ連邦共和国の新内閣が発足した。9月22日の総選挙の後、87日ぶりに、ようやく政治の機能が再生したわけだ。連立協議はたいてい長引くが、ここまで長かったのは珍しい。

 今回、ドイツ政府は、CDU(キリスト教民主同盟)+CSU(キリスト教社会同盟)のいつものコンビにSPD(社会民主党)が加わり、戦後3度目の大連立となった。CDU とCSUは保守中道、SPDは、かつてヴィリー・ブラント首相などを輩出した労働者の政党である。

連立協議でのポスト争奪戦、初の女性国防大臣誕生の舞台裏

 もっとも、長い歴史のあるSPDも、今では自分が労働者と自覚する人間が減ったためか、今回の総選挙ではCDUの人気に遠く及ばず、敗者と呼ぶに等しかった。ところが、連立協議では滅法うまく立ち回り、16の大臣職のうち6つを手にしたのである。

 CSUが3つ、そして、CDUは7つだ。首相はもちろんメルケル氏。コンラート・アデナウアー首相以来2人目の、3選の首相だ。

 実は、2005年からの4年間も、ドイツは、メルケル首相の下での大連立政権であった。とはいえ、現在のメルケル首相の力は、当時と比べて比較にならないほど強い。与党の数が圧倒的であることはもちろん、過去2期の実績が物を言っている。

 今の彼女は、自分ができるということを必死で証明する必要がない。国民は、メルケル首相の実力を認めて、再々度、彼女を選んだのである。

 大連立の良さというものはある。傍から見ていると、つい3カ月前まで、親の仇のように戦っていた敵同士が、仲良くスクラムを組んでいるのを見せつけられて、何となく腑に落ちないところはあるが、政治家にとっては、自身の変わり身の早さはあまり問題ではない。

 大切なのは、“過去”ではなく“将来”だそうで、誰が誰と組もうが、4年後に国民の生活が向上されていれば万事OKという現実的な考え方が前面に押し出されている。

独初の女性国防相に7児の母、第3次メルケル政権の閣僚人事発表

ドイツ初の女性国防相に任命されたフォン・デア・ライエン氏〔AFPBB News

 現内閣のサプライズは、国防大臣だ。ウルズラ・フォン・デア・ライエン氏。これにより、ドイツには、初めて女性の国防大臣が誕生することになった。

 フォン・デア・ライエン氏は、頭が切れること、また、スピーチの巧みさで有名だが、とにかく小柄で華奢な女性なので、国防大臣は何となくピンとこない。実は、7人の子供を産んだスーパーウーマンであるが、かといって、「兵隊の母」といったイメージもない。

 ひょっとすると、戦争好きで、ハイテク武器好きといった、男性優位の国防軍のイメージを、スマートなものに変革する役目を果たすのだろうか。

 フォン・デア・ライエン氏は、前労働大臣。労働省は、社会保障を担当するため、最大の予算を持つ党だ。今回は、この労働大臣の職に、労働者の党であると自認しているSPDが拘ったため、フォン・デア・ライエン氏は席を譲らなければならなかった。

 労働大臣と同じぐらい重要な職は、財務、外務が決まってしまっていた関係上、国防しかなかったから、この人選になったともささやかれている。いずれにしても、国防省は、現在、いろいろな問題を抱えているので、切れ者の彼女の腕前に期待したい。