この8月末、世界がシリアの化学兵器問題で忙殺されている頃、北朝鮮の寧辺の5メガワット黒鉛炉から白い水蒸気が立ち昇ったことが確認された。そして、9月半ばをすぎると、熱水が黒鉛炉から排出されていることも確認された。これは北朝鮮が、改めてプルトニウム生産に向けて、狼煙をあげたと見てもよい動きであろう(注1)。
この寧辺の5メガワット黒鉛炉から昇る白い水蒸気の写真を見て、北朝鮮の金正恩第一書記ではなく、シリアのバッシャール・アサド大統領をすぐに想い浮かべた方は、すぐにでも立派なインテリジェンスアナリストになれる資格があるかもしれない。
現在のシリア情勢は、インテリジェンスアナリストを鍛えるのに最高のホームグラウンドを提供してくれていると言っても過言ではない。なぜなら、そこには多くの解けない謎があるからだ。
優れたインテリジェンスアナリストになれるか否かは、異なる場所での、異なる事態が、あたかも1つの物事として即座にイメージできるかにかかっている。謎を解くためには、おおよそ関係のないと思われる物事を、直感を働かせて、結びつけるという能力が必要なのだ。
シリア情勢は、もはや我々日本人にとって遠い世界の出来事では決してない。なぜなら、シリアと北朝鮮は、大量破壊兵器という水脈の奥深くで、密接につながっているからだ。そして今、シリアの化学兵器施設への査察が始まろうとしているが、この査察の結果次第では、シリアと北朝鮮の化学兵器に関わる協力関係が白日の下にさらされる可能性すらあるからだ。
そっくりだったシリアの原子炉と北朝鮮の黒鉛炉
現在、シリアの化学兵器問題に隠れているが、2007年以降の北朝鮮とシリアの核開発協力には重要な謎が残っている。
2007年9月にイスラエルによる空爆で破壊された、シリアのアル・キバール原子炉は、北朝鮮の寧辺にあった黒鉛炉と、その設計やデザインがそっくりのものであったことは、すでによく知られている事実である(注2)。
米国の情報当局による2008年4月のブリーフィングにおいて、6者協議にも参加したことがある、寧辺の核開発責任者の「チョン・チブ」という人物が、シリアの核開発責任者であるイブラヒーム・オスマンと一緒に写っている写真も公開されており、米国情報当局によれば、シリアと北朝鮮は、1997年以降、核開発に関する協力を深めてきていたとされる。
さらには、そのシリアの原子炉開発計画の資金の出所がイランであったと、イランの革命防衛隊准将で、元イラン防衛副大臣であったアリ=レザ・アスガリ将軍が証言していることなども、その後、広く報道されている。