経営力がまぶしい日本の市町村50選(12)
人口は2000人程度、65歳以上の高齢化率は50%以上という、少子高齢化の日本を象徴するような町が、昨年9月に公開された映画『人生、いろどり』の舞台となった。
徳島県上勝町である。
「つまもの」ビジネスで一躍有名になったこの町は、かつてはみかん栽培が盛んだったが、1981 年の異常寒波で多大な被害を受け、深刻な状況に陥った。
年収1000万円のおばあちゃんには医療費も老人ホームも不要
そんな上勝町を救ったのが1人の男である。農業の再生に向けて営農指導員として採用された横石知二氏が目をつけたのは、上勝町の特産品として、料亭などで料理に添えて季節感を楽しませる葉っぱや花の「つまもの」であった。
商品化までには品質や衛生面の確保、安定供給するための量産体制確立など様々な課題を乗り越え、1986年に初出荷となる。このときに誕生したのが第3セクターの株式会社いろどりである。
この「葉っぱビジネス」では、上勝町独自の出荷システムを構築して市場のニーズに迅速かつ適確に応えることで、全国の料亭などから厚く信頼される上勝ブランドを確立した。
生産者の中心であるおばあちゃんたちは、パソコンやタブレット端末の画面から市場ニーズや供給量などの情報を得、自ら需給バランスを考えて出荷量を調整し葉っぱを採取している。
また、自分の売り上げや採取仲間の間での順位なども知ることができるため、良い意味での競争意識をもたらしている。中には年収1000万円を超す人も珍しくなくなった。
そしてこの事業は町の福祉効果にも大きなインパクトを与えている。
徳島大学医学部による「いろどり」農家への調査結果では、「働くことで自身の健康状態が良くなったと感じることにより、今の生活に対する満足感の向上や、加齢に対する否定的な気持ちの軽減につながっている」との考察が述べられている。
働くことが生活リズムを維持しやすくし、生活リズムが健康維持につながり、健康感が幸福感に影響を与えているわけである。