3月14日付の「日本経済新聞」朝刊は、1面トップでスクープ記事を掲載した。特定の投資家らが、上場企業の決算公表前に情報を入手し、これをもとに株式売買を手がけていたという内容だった。長期間にわたり、多数の取材をこなした痕跡がうかがえる一大スクープと言っても過言ではない。

 だが、同日付の同紙の別面には、発表前の企業決算見通しが載った。情報を不正に入手した上でのインチキ売買と、「ほぼ確定」と言っても過言ではない見通し記事が同一の媒体に載っているのは大きな矛盾だと筆者の目に映った。

 一般の読者には分かりにくい事情を掘り下げてみる。

決算見通しを発表の前に取材するマスコミ

 本題に入る前に、日経のスクープを要約しておこう。

 同社の取材によれば、2010年以降、上場企業約20社の重要情報が公表直前にインターネット上で複数の投資家によって閲覧されていたという。約20社は公表直前のデータを自社の管理サーバーに保存、投資家らはこのデータにアクセスした上で株式売買を手がけ、数百万円の利益を得たケースもあったとされる。

 証券取引等監視委員会もこうした事実を把握し、市場の公正をゆがめる行為と見て調査を行っているが、インサイダー取引規制には抵触しない。ただ同委は、今後企業側が外部からの接続を防ぐ措置を講じても強引にアクセスするような事例があれば、不正アクセス禁止法違反にあたる可能性があるとして、警察当局への通報も検討するという。

 同日付の紙面では、1面トップのほか、社会面にも詳報が載った。その後も東証が全上場企業を一斉調査することが伝えられるなど、同社社会部の取材チームの活躍が光る。元記者としては、調査報道のお手本のような記事だと賞讃の言葉を贈りたい。

 一方、同日付の同紙17面の投資・財務欄のトップにはこんな記事が載っている。

 〈千代田化工建設の2013年3月期の連結営業利益は、前期比7%増の260億円前後になりそうだ。従来、7%減の225億円を予想していた〉・・・。

 同じ面には、エプソンや三井ハイテックの決算記事も載っているが、いずれも両社が発表したデータとして記されている。