18日に公表される予定の6月の月例経済報告で、景気の基調判断に2008年7月以来となる「緩やかに回復」という表現を盛り込む(景気「回復」を宣言する)ことを政府が検討中だと、複数のメディアが報じている。さらに、1-3月期の2次QE(四半期別GDP速報)の結果を踏まえ、政府は2010年度の実質GDP見通しを現在の前年度比+1.4%から同+2%台半ばに上方修正する見通しで、こちらは遅くとも22日までに、中期財政フレーム・財政運営戦略と併せて閣議決定される方向だという。ただし、政府は景気について自律的な回復には依然として至っていないと判断しており、物価については「緩やかなデフレ状況」という認識も変更しない見通しである。日銀に対しては今後も、粘り強く金融緩和を続けることが求められてくる。

 ちなみに、その日銀は5月の金融政策決定会合終了後の対外公表文で、「わが国の景気は、海外経済の改善を起点として、緩やかに回復しつつある」と記述し、「回復」という表現を盛り込みつつ判断を上方修正している。だが、政府は5月の月例経済報告では、「景気は、着実に持ち直してきているが、なお自律性は弱く、失業率が高水準にあるなど厳しい状況にある」という表現のまま、景気判断を据え置いていた。

 政府による景気回復宣言や経済見通し上方修正は、中期財政フレームや財政運営戦略によって財政健全化努力・財政規律を政府が内外市場参加者にアピールしようとする際に、次のような2つの効果を有すると考えられる。これらは、財政規律に対する懸念を昨秋以降強めている債券相場にとっては、ポジティブな話である。

(1)財政再建プランの前提となる名目GDPおよび税収の見通しに説得力を持たせる効果
(2)財政再建プランの実行を妨げる追加経済対策の可能性が減退したことを示す効果

 しかし、消費税率引き上げ問題での積極的な動きを期待している向きからすれば、菅内閣のここまでの動きには物足りなさがつきまとうというのが、率直な感想ではなかろうか。これにはいくつかの理由がある。

 6月11日に菅直人首相が行った所信表明演説には、消費税に直接言及した部分がまったく見当たらなかった。代わりに盛り込まれていたのは、財政健全化を進めるためには税制の抜本改革に着手することが不可避であるとして、超党派議員による「財政健全化検討会議」の創設を呼びかけた部分だった。これは、ボクシングで相手の懐に飛び込んで抱きついて攻撃を封じ込める「クリンチ作戦」(民主党幹部)だと、民主党内では説明。「野党を巻き込むことで民主党への批判を分散する戦術だ」という(6月12日 東京新聞)。