経営力がまぶしい日本の市町村50選(7)
新潟県の南端に位置する津南町は、人口わずか1万人ほどの小さな町であるが、夏は深緑とひまわり、秋には紅葉、そして冬には一面の雪景色と、四季折々の風景を楽しむことができる自然に恵まれた土地でもある。
また日本有数の豪雪地帯ではあるが、名水百選の龍ヶ窪の池をはじめとした湧水や豊かな自然を生かして、農業による町おこしを町是としている。
農を以って立町の基と為す
津南町は、苗場山麓開発事業で整備された広大な農地での安心安全な農作物の生産や、日本一の河岸段丘*1や、秘境秋山郷*2などに恵まれた自然景観をそのままに残し観光客の誘致を進めている。
*1 信濃川とその支流によって作られた階段状の地形で、段丘崖の高さや段丘面の広がりと9段にも及ぶ段数などから日本最大の規模を誇る。
*2 中津川上流に点在する13の集落の総称で、四季を通じて風景やトレッキングを楽しめる。特に紅葉の季節が絶景。
中でも津南で収穫されるコシヒカリは絶品である。「登熟(穀類などが出穂のあと成熟していくこと)に適した河岸段丘」「好適な土壌」「豪雪」「豊富で清潔な水」「日当たり、通風」など諸条件が揃って初めて生まれる高品質なお米である。
また特産品の雪下にんじんも津南町ならではである。広大な大地の有機質の豊富な畑に播かれたにんじんは秋に収穫することなくそのまま3メートルの雪の下で春を待ち、4月に2メートル近い雪を割って収穫される。
雪下にんじんはにんじん特有の青臭さがなくサラダやジュースに最適で子供の口にも合うし、越冬前のにんじんに比べて、甘味やうま味を感じる遊離アミノ酸をはじめとする成分が6~13倍にもなり、豊かな風味を作り出す。
そして3メートルにもなる雪が消える5月中旬ごろには、アスパラが一斉に土を持ち上げ芽を出しすくすく成長し、やわらかく、かつ甘くておいしいものができる。
大規模堆肥センターから供給される有機質の豊富な堆肥が投入されて育て上げられる、安心安全な野菜である。
「津南方式」で、自律した町づくりを進める
多くの自治体が、2001年度から施行された国の基準財政需要額抑制や「三位一体」改革の影響によって歳入が減り財政運営に四苦八苦している中で、津南町は「入るをはかって出ずるを制す」の鉄則を徹底し、身の丈に合った健全経営をしている。
それを後押ししているのが「津南方式」とも言われる、自律に向けた町づくりである。
津南方式を象徴する出来事として、平成の大合併のブームに乗らずに独自路線を決断したことが挙げられる。
財政が逼迫する中、新潟県下の3分の2の自治体は合併を選択してきたが、地域の独自色が薄れてしまったり、合併算定替による10年間の特例が途絶えだすと途端に財政難に陥るケースが多い。