6月7日の米国株式市場で、ニューヨークダウ工業株30種平均は前週末比▲115.48ドルの続落。終値は9816.49ドルで、昨年11月4日以来、約7カ月ぶりの安値になった。欧州信用不安問題とリスク回避志向の継続に加え、米5月の雇用統計で民間部門の雇用創出力の弱さが浮き彫りになった前週末4日の「雇用統計ショック」が尾を引いている。さらに、米議会の金融危機調査委員会(FCIC)が米大手投資銀行に対して書類提出などの対応不適切を理由に召喚状を発したことが悪材料。ハイテク株の下落も目立った。ユーロ安が続いている為替相場の不安定な展開や、上海総合指数の年初来安値更新なども嫌気された。

 市場であまり売買の手掛かりに使われなかったものも含め、この日に出てきたいくつかの材料について、筆者なりにコメントを加えておきたい。

◆4月の独製造業受注前月比+2.8%

 予想外の2カ月連続増加となった(3月分は前月比+5.1%に上方修正)。国内向けが前月比+2.9%で、輸出向けが同+2.8%。後者のうち、ユーロ圏外からの受注が同+5.5%と堅調だった。ユーロ安による輸出押し上げ効果が示されたものと受け止められる。こうした数字が出てくれば出てくるほど、ユーロ圏の政策当局者は一種の確信を持って、ユーロ安を容認する発言を繰り返すことだろう。

◆ドイツ政府が4年間で800億ユーロの歳出削減策を発表

 ハンガリーの財政赤字に関する同国政府高官発言に市場が敏感に反応したことは、市場が欧州の財政赤字の持続可能性について強い懸念を抱いていることを再確認させた。金融政策は単一だが財政政策は各国の主権に委ねられているという制度的な欠陥が露呈しているユーロ圏では、欧州通貨統合という制度全体への信認を維持するため、各国がこぞって財政緊縮を強化しようとしている。ドイツのメルケル政権は、すでに所得減税の見送りを発表しているが、これに加えて、2014年までに総額800億ユーロの歳出削減を行う方針を明らかにした。まず、2011年に112億ユーロの歳出カットを行う。宿泊費について付加価値税率を7%に下げた措置についても見直すことを、メルケル首相は示唆した。

 メルケル首相は「ドイツは欧州最大の経済大国として、良き模範を示さなければならない」と強調した。しかし、言うまでもないことだが、ユーロ圏各国が財政緊縮を無理に強化すれば、ユーロ圏の景気回復に悪影響が及ぶ度合いがそれだけ大きくなる。そして、ユーロ圏が景気の下支え役として一段のユーロ安に期待しようとする誘惑が、それだけ大きなものになりやすい。だがそうなると、「強いドイツマルク」への郷愁を今も抱いているドイツ人が「弱いユーロ」をしばらくの間甘受せざるを得ず、不満が高まるということにもなってくる。