MRIC by 医療ガバナンス学会 発行

 私たちは誰しも自分の外観について、目が小さい、顔が大きい、鼻の形が悪い、足が太い、胸が小さいなど、多少なりとも何らかのコンプレックスがあると思います。ただし多くの場合、そうした外観の悩みがあっても、日常生活に支障をきたすことはありません。

 ところが、自分の外観についての悩みが病的に深まり、日常生活もままならなくなってしまうことがあります。Body Dysmorphic Disorder、「身体醜形障害」(しんたいしゅうけいしょうがい)と呼ばれています。

自分勝手に醜いと思い込む「身体醜形障害」

 身体醜形障害とは、一口に言えば、他人から見れば全く問題が感じられないのに「自分の容姿が醜い」と苦悩する心の病です。毎日何時間も、自分の外観の美醜に関して考えるようになり、コントロールできなくなります。

 他人が「あなたの外観は、ぜんぜん問題ないですよ」と言っても、全く信じることができず、悲観的な考えから精神的苦痛を生じ、日常生活に支障が出ます。一種の心気症と考えられており、日本では「醜形恐怖」とも呼ばれます。

 仕事や学校にも行けなくなり、家族、友達から離れ、社会から孤立します。不必要な美容整形手術を受け、それで決して満足することはできず、最終的には自殺に至ることもあります。

 アメリカにおける1995年の調査では人口の1%に身体醜形障害が見られるとされていますが、実際にはより多数の患者が推測されています。

 日本では1990年頃から増えていて、専門家による正しい診断と治療が必要です。身体醜形障害の原因は不明ですが、遺伝的、環境的要因や脳内化学物質などの関与などが考えられています。

 身体醜形障害者は、極端な低体重など偏ったボディーイメージを持っています。ボディーイメージとは、無意識あるいは意識的に抱く自分の身体像・容姿であり、それに対する自己評価や願望を伴います。

 男女差はありませんが、10代に発症することが多く、特に、自分の髪の毛、皮膚、鼻、胸、目、顔全体などにこだわりが見られ、それ以外にも、唇、脚、歯、顎など、様々な部分が対象となります。

 その結果、自分の醜いと信じている部分を化粧、衣類や帽子などで隠す、鏡で頻繁に自分の姿を見続ける半面、醜い自分の姿を見ないよう鏡を避ける、他人の外見と比較する、美容整形を求める、極端なやせ願望、皮膚のピッキング(つめで皮膚をむく行為)、過度の運動や着替えなどの症状が現れてきます。