Z社は大手派遣会社から人材を派遣してもらい、その人材をM社に派遣している。つまり、二重派遣である。金額も大幅にダンピングして、数十人の社員をM社に送り込んでいる。
Z社にしてみれば、今まで手がけていなかった新しい仕事を取りにいけるし、業務が縮小した時にも即座に対応できるので、派遣会社の社員を客先に送り込むメリットは極めて大きい。
またM社の側にしてみても、派遣料金が安ければコスト削減になるわけで、Z社のスタッフを使いたくなるのは分かる。
だが、「多重派遣」「業務守秘義務解約が未締結」(派遣社員は派遣会社に所属しているので、M社は契約を強要できない)など、コンプライアンス上は問題だらけである。
自由競争の世界なので、Z社が派遣業に参入すること自体は問題がない。だが、そこまでして食い込もうとするのは、いかがなものか? また、M社はその実態を把握していないのだろうかと首をかしげざるを得ない。
IT業界では「正直者が馬鹿を見る」?
雇用者と労働者の紛争は近年増加の傾向をたどり、毎年1000件以上の裁判が行われているという。裁判までいかない「調停・示談」まで入れると相当な数になるだろう。
判例を見ると、派遣社員が、自分が契約している派遣会社ではなく、派遣されて働いている会社に対して訴訟を起こし、勝訴している判例が出てきている。経営者は、派遣社員の労働形態に関して最新の注意を払う必要がある。
特にIT業界では「偽装請負」が横行している。名ばかりの「請負契約」を下請け企業と締結するものの、実態はその会社のプログラマーやSEを自社に常駐させ、派遣社員のように働かせているのである。これは、法的には通用しないことを認識する必要がある。
もちろん法律を真面目に遵守している会社も存在する。しかし、残念ながら、IT業界は「正直ものが馬鹿を見る」世界となっているのが実状なのである。