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2025年もさまざまな新商品、新サービスが発売され、世間の関心を集めた。しかし、華々しく登場しながらも、社会に浸透せずに姿を消したものもある。なぜ、革新的な商品が必ずしも普及に結びつかないのか──。イノベーションの成否を決める鍵について「普及の過程に潜む『摩擦』の存在を知る必要がある」と語るのは、2025年7月に著書『イノベーション 普及する条件』を出版したハーバード・ビジネス・スクール助教授の天野友道氏だ。企業が見落としがちな摩擦の正体、イノベーションを普及させるために必要な視点について、天野氏に聞いた。
イノベーションの魅力を決定付ける「ある要素」
──著書『イノベーション 普及する条件』では、革新的な商品が普及するまでの過程について解説しています。今回、どのような理由から本書を執筆したのでしょうか。
天野友道氏(以下敬称略) 私は以前から、ゲームやソーシャルメディアといった「デジタル商品」が、なぜ消費者をこれほどまでに強力に引き付け没頭させ、時間やお金を費やすのか、ということに関心を持っていました。
「なぜ、消費者はゲームのガチャに課金するのか」というテーマで研究していた際、米マイクロソフトCEOのサティア・ナデラ氏と話す機会がありました。ソフトウエアのほか、PC・ゲーム機(Xboxなど)といったデジタル製品を扱う同社の事業について、同氏は次のように語りました。
「子どもたちにテニスや山登りを経験させることもできる中で、私たちが作っているデジタル製品は、どのような形で良いものになり得るのだろうか。そのことを常に問い続けています」
テニスや登山のように生活を豊かにしたり、仕事の生産性を高めたりするものと同じ土俵で、新しい製品やサービスは「生活や仕事の中にどう位置付くのか」が問われているのだ、と私は解釈しました。
この視点に立つと、イノベーションの本当の価値は製品そのものではなく、普及の過程で人々がどのように受け入れ、自分の生活のどこに位置付けたかに表れます。普及とは、人々の時間と注意が再編されていくプロセスそのものであり、そこに潜む摩擦を理解しなければイノベーションを正しく評価することはできません。
つまり、イノベーションそのものが魅力的なものかどうかは「どれほど消費者や顧客に取り入れられるか」によってのみ、知ることができるのです。
普及の観点を世間に知らしめたイノベーター理論の提唱者エベレット・ロジャーズ氏の著書『イノベーションの普及』が出版されてから半世紀が過ぎました。現代的な実証研究の観点も踏まえながら、「普及」について改めて捉える必要性を感じ、本書を書くことにしました。







