もういまから15年ほど前のことになるでしょうか、とある新設の私立大学を訪れたことがありました。
廊下には、やたらたくさん、墨書された標語が掲げられています。どうやら、創立者の先生が大変個性的な方であるようで、学生向け、あるいは教職員向けにさまざまなモットーや訓示を墨で書いて張り出しているもののようです。
その中で、「あちゃー、こりゃダメだ」と思うものがありました。
それは教職員、と言うより教員向けの「訓示張り紙」で、以下のようなことが記されていたのです。
「諸君は『教育サービス産業』の従事者としての自覚をもって、学生にサービスしなければならない。これからやってくる少子高齢化の時代、その自覚なくしては、我が大学は成り立っていかない。奮励努力せよ」
正確な内容は忘れてしまいましたが、大まかにこんなようなことが書かれていました。これをなぜ私は「こりゃダメだ」と思ったのでしょうか。
そのあたりから考え直してみたいと思うのです。
クライアントは誰か?
上のような「標語」、もしかして、至極当然と思われる方が多いかもしれません。
「そんなの当然じゃないか。これからの少子高齢化の時代、どの学校に進学するか、少ない買い手の学生が、売り手の大学を見比べ、値踏みされてしまう時代だ。より多くのサービスを顧客たる学生さんに施して、より多くの学生にわが大学に進学していただかねば、経営が成り立たないだろう」
なるほど、企業経営のように考えるなら、それも一理あるでしょう。しかし私は、極論するなら、これでは大学失格だと思うのです。なぜか・・・?
それは、大学が「企業」ではなく「学校法人」として、税制その他の形で社会の中で圧倒的に優遇されている事実を念頭に置くからにほかなりません。
学校法人は、社会的に優遇されている。なぜか?
学校は社会にとって大切であり、必要なものだと思われているから。それ以外に理由はありません。つまり大学は企業ではない。