「クラウドコンピューティング」という言葉が聞かれるようになって、すでに数年が経過した。クラウドの波はCRM(Customer Relationship Management)の領域が牽引し、徐々に基幹システムにも広がりつつある。

 活用範囲を広げる会社が見られる一方で、クラウドのサービス利用を止める会社も出てきている。だが、様々な教訓も蓄積されてきて、一定の普及局面まで来ているのではないかと思われる。

 今回は、筆者の現場での経験をもとに、業務システムにおいてクラウドの良さを最大限まで生かして経営を強化する力(=「クラウド力」)とはどのようなものかを考えてみたい。そろそろそういった力量を棚卸して、これからの経営に役立つ考察をしてみてもよい頃だろう。

「システム構築」に捉われずにビジネスニーズを追求

 ある会社では、海外複数拠点の市場の変化をリアルタイムで吸い上げられるようにするために、何らかのシステム導入が早急に必要とされていた。そこで、その仕組みを作り上げる期間を「1カ月以内」と設定した。

 筆者はその実現策を共に考える立場にあったのだが、システムがどうこう以前に、とにかく期間が第一優先。企画にも導入にも時間をかけていられない。いわば“無茶”な相談であるが、それが経営者のニーズというものだ。

 ごく短時間の検討の結果「既存のクラウドサービスしかない」という結論に至り、「これでいけるだろう」というレベルのカスタマイズを2週間で行い、結果として3週間でリリースに至った。

 もちろん最初は業務との細かいギャップが出てくるし、必要なデータ類も完全に吸い上げられたわけではない。

 だが、通常のシステム構築の時間軸で「要件定義書」を作っている段階で何も形になっていなければ、何も得られない。経営は仮説検証である。多少粗いシステムでも、必要なタイミングで何らかの仮説につながるインプットが得られることに意味がある。