最近、一部の報道を見ると、ホルムズ海峡に機雷が敷設された場合の我が国の措置として、停戦が成立していることを前提に遺棄された機雷の除去なら可能だとする考え方が、現行法上の解釈として至極当然のごとく語られている。

 しかし、この前提は誤りであり、誤解を与えるばかりではなく、我が国として採りうる措置の選択肢の幅まで狭めてしまう虞があるので注意を要する。

1.遺棄機雷の除去は停戦が必須の条件か?

ホルムズ海峡の衛星写真(ウィキペディアより)

 ペルシャ湾方面での機雷の除去に関しては、日本政府として少なくとも過去に2度は法的な面を含め検討してきた筈である。そして、少なくともその法的な解釈は、今日も変わらないはずだ。

 最初は、イラン・イラク戦争末期の昭和62年(1987年)に、ペルシャ湾内外で触雷被害が続出し、米国から日本に掃海艇派遣が打診された時である。

 当時の第3次中曽根康弘内閣は「除去する機雷が公海上に遺棄されたもので、我が国の船舶の航行と安全に障害を与えているという2点が満たされていれば、機雷の除去は武力行使に当たらない。自衛隊法第99条(現在の第84条第2項)による海外派遣は可能である」との解釈を示した。ただし、当時は戦争中であり、後藤田正晴内閣官房長官の反対もあったことから政治判断として派遣するに至らなかった。

 この件については、第109回国会衆議院内閣委員会第6号(昭和62年8月27日)の会議録の中の和田一仁委員と中曽根総理のやりとりとして詳述されている。またこれに関連するペルシャ湾の安全航行確保問題に関する質問主意書(PDF)及び政府答弁書(PDF)がある。

 2度目は、湾岸戦争直後の平成3年(1991年)であり、ペルシャ湾への掃海部隊派遣に際しての検討である。この時も遺棄機雷の除去と停戦のことが国会で議論されている。

 第120回国会参議院内閣委員会第8号(平成3年4月25日)の会議録によれば、内閣法制局も自衛隊法第99条の機雷の除去等は戦時、平時を問わない規定との解釈を示している。

 ただし、答弁のなかで「遺棄された機雷になったかどうかということの判断の1つのメルクマールとして戦時か平時かということが大きな要素になる」という見方を示したことに加えて、「戦時においては機雷の除去が武力の行使になる場合もあり得る」と補足したことなどから、今日の誤解へと繋がったのだと思う。

 恐らく自衛隊創設以来初めてとなる実任務のための海外派遣であったことから、国民的な理解を得る上でのレトリックとして平時であることが強調されたのだろう。しかしながら、こうしたことが既成概念となって後々に選択肢の幅を狭めてはならないと思う。

 遺棄機雷の除去は停戦が必須の条件かとの問いへの答えは、否である。