はじめに
民主党の外交安全保障政策は、政権発足以来、確たるものがない状態が続いていた。鳩山由紀夫首相がバラク・オバマ米大統領に「トラストミー」と見得を張り、次の管直人首相が自衛隊の指揮官を自認していなかったことを知り、国民は外交安全保障政策の担い手としての民主党に対する不安感を募らせたのであった。
しかし野田佳彦政権になり、民主党の外交安全保障政策が少しずつ現実的かつ安定的なものへと変化してきたことに注目したい。
野田政権は、昨年12月に武器輸出3原則を見直す決定を表明した。1962年に佐藤栄作政権が表明した同3原則は輸出対象国を限定したものであった、1976年に三木武夫政権が「武器」の範囲を武器製造関連設備に拡大した。
しかし野田政権は、来年1月予定の国連ハイチPKOからの撤収時に建設用重機の一部をハイチに提供する決定を行った。
建設用重機は、銃などを置く台座が設置されているので、従来「武器」に準ずるものとされていたが、今回、武器輸出3原則の緩和新基準に基づいて提供を可能にした。
また野田政権は、尖閣諸島購入を表明するとともに、異議を唱えた中国に対して毅然とした態度を示し続けている。
従来の民主党政府の対中国外交は、2年前の中国漁船衝突事件の主犯船長の帰国を認めるなど軟弱さが目立っていた。
しかし野田政権は、今年7月、避難港や灯台の建設、自然環境の保全等の目的のために尖閣諸島を国有化すると表明し、とかく中国の立場を忖度してきた丹羽宇一郎中国大使を一時帰国させ、国土購入は国内問題であるとする日本の立場を断固貫いている。
野田政権は、政権発足直後、イランによるホルムズ海峡機雷封鎖表明時に、いち早く核拡散反対の立場からイランの核開発に反対を表明していた。
これとの関連で、今年9月に米国がペルシャ湾で実施予定の20カ国以上が参加する大規模な多国籍機雷掃海訓練に海自掃海隊を派遣する方針を7月に固めた。
野田政権は、極めて控えめではあるが、国家主権を明確に意識し、国際安全保障環境の急激な変化に対応して、外交安全保障政策を現実的かつ具体的に実施する方向に舵を切ったと言えよう。
しかしホルムズ海峡の機雷を除去する場合、集団的自衛権を行使する状況になることは容易に予測される。野田政権は、発足時に集団的自衛権について従来の解釈を維持すると表明したが、機雷除去に向けて集団的自衛権の解釈変更を推進するのであろうか。