彼らの多くは、タイ人やベトナム人など海外から乗り込んできた買い付け業者だ。彼らに雇われたカンボジア現地人トラック業者も含めた、近隣国から“来襲”するコメ買い付け外国人部隊である。

タイやベトナムからトラックで“侵入”

価格合意されたサックはトラックに運び込まれる

 彼らは、どういうルートを使ってかカンボジア国内にトラックで“侵入”し、現地農家からコメを現金で買い付け、またどういうルートを使ってか自国に籾を運び出す。

 現地カンボジア人農家からしてみれば、バイヤーがカンボジア人であろうがタイ人・ベトナム人であろうが、家の軒先まで来てくれて、納得感ある相場価格で即金買い取りしてくれる相手は、誰であれ大歓迎だ。

 実際、筆者がカンボジアで経営する現地企業(JC Groupの事業会社の1つ、JC Foods Co., Ltd.)でも、バッタンバンのコンピンプイという地域にある約230ヘクタール(東京ドーム約50個分の面積)の稲作農場で、自ら稲作を行っている。

 2009年の雨期から稲作事業をスタートしているので、もう3年目に突入しているが、タイやベトナムからの買い付け業者にずいぶんお世話になっている。

バッタンバン州コンピンプイのJC Foods農場。230ヘクタール(東京ドーム約50個分)の広さで、日本からの技術を取り入れながら稲作を行う。日本製コンバインで稲の収穫中

 現在、2012年乾期稲作の収穫真っ最中だが、現地販売用の籾を買い付けにくるバイヤーは、相変わらずカンボジア、タイ、ベトナムの3カ国バイヤーたちだ。

 昨年(2011年)雨期稲作の際の弊社販売データによれば、その3者がほぼ均等に弊社の籾を買い付けてくれた。

 こうしてカンボジア産のコメは、“国の統計に残らない”形で近隣国に流出していく。

 米農務省は、何らかの手法で現地調査を行い、カンボジアとしては非公式情報になる海外流出コメのデータを入手しているのだろう(推測・私見含む)。

 その米農務省によれば、カンボジアから“輸出”されるコメは2011年で約100万トン。2010年の120万トンより減ってはいるが、カンボジアでもよく「100万~200万トンのコメがタイやベトナムに闇で流出している」と非公式に語られる話の数量とも、概算で一致する。

 一方、先述のMoC(カンボジア商務省)の発表によると、2011年1~10月のコメ輸出量は13.6万トン(前年比7%増)、というレベル。カンボジア国内でしっかり精米され公式に輸出されたコメの量と、タイ人・ベトナム人により国外流出したコメとの量の開きは、いまだに“桁違い”だ。

 「タダで強奪されているのではなく、しっかり農家から現金買い取りされているのだから、タイ人・ベトナム人が即金で買って持って帰っても問題ないのでは?」という意見も当然あろうかと考えられる。

 しかし、コメが本来内含する“付加価値”全体を考えると、その非公式な価値流出の弊害は甚大だ。