前回の続きで、「復活させたいもの、その2」を書こうと思う。

 その1は、NHK-BS 囲碁・将棋対戦の午前中の中継だった。その2は、検印である。

 検印といって、分かる方はどのくらいおられるだろうか?  ちなみに、JBpressのメールマガジンで連載中の「日本消滅」を担当してくれている女性編集者は検印が何か分からなかった。

 検印とは、本の奥付に付されていた著者印のことである。2センチ角ほどの紙片に著者が自分の判子を捺して、それが糊付けされている。

 今でこそ、出版は優良業種と見なされているが、かつてはそれこそブラック企業と言われても仕方がないような会社がいくつもあった。

 「ゲゲゲの女房」では、漫画家の水木しげる夫妻が出版社から原稿料を支払ってもらえずに苦労する姿がしつこいほど描かれていた。中には、著者に伝えた以上の部数を勝手に刷って、その分を只取りしてしまう悪辣な出版社さえあった。

 そこで、著者側の自衛策として、本に検印を付すことで、出版社が刷り部数を欺くことを防いだのである。ただし、その後はブラック出版は淘汰されて、阿漕(あこぎ)なまねをする会社がなくなったため、検印はしだいに廃止されていく。

 1000部や2000部ならまだしも、万単位の印を捺すのは大変である。また、紙代、糊代、人件費もバカにならない。そのため、検印に代わり、「著者の諒解により検印廃止」との文言が奥付に記されるようになった。さらには、そうした文言も消えて、検印は完全に過去のものとなってしまった。

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 誤解のないように断わっておけば、私は出版社に騙されないために検印を復活させようというのではない。

 本の売れない昨今ではあるが、私の知るかぎりでは、原稿料の未払いも、刷り部数のごまかしも行われていない。

 それなら、どうして検印を復活させたいのかといえば、装飾的な効果と、自作を世に出す作者の心構えとしてである。