米国の対中戦略には、その進展と決意をうかがわせる動きが出てきた。
これまで、中国の「接近阻止・領域拒否(A2/AD=anti-access/area denial)」戦略に対抗する米国の戦略は、海・空軍を中心とする「海空戦(Air-Sea Battle)」構想が表立ったものであった。
アメリカの決意を窺わせる対中戦略の本格的展開
今年3月、米陸軍能力統合センター(Army Capabilities Integration Center)と海兵隊戦闘開発コマンド(Marine Corps Combat Development Command)は、合同で、「アクセスの獲得・維持(Gaining & Maintaining Access )」と称する陸軍・海兵隊構想を公表した。
当然、21世紀における最大の安全保障・防衛上の懸念材料となっている中国の「A2/AD」戦略を破砕することを主眼に、敵国領土への陸上戦力の投入を目指すものである。
これによって、米国の中国を主対象とする陸・海・空軍および海兵隊による作戦構想が出揃い、米軍全体としての新戦略の全貌が明らかになった。
すなわち、海・空軍を中心とする「海空戦」構想と陸軍・海兵隊を中心とする「アクセスの獲得・維持」構想が結合されて、米国の「統合作戦アクセス構想(Joint Operational Access Concept)」として結実しつつある。
この動きには、ヨーロッパを主戦場とした冷戦期において、ソ連の大規模機動打撃戦力に対抗するために作られた「空地戦(Air-Land Battle)」構想の策定段階で得られた教訓が反映されている。
また、陸軍および海兵隊は、海・空軍にはない「占有(占領)力」を最大の特徴としており、国家の最終意思の表明として相手国の領土と住民を支配し、戦いの帰趨を決する究極の軍事力である。
中国の軍事的意図を破砕するため、その陸上戦力の投入が作戦構想として具体化されたことは、米国の対中戦略の本格的展開とともに不退転の決意を読み取ることができよう。
本項では、「アクセスの獲得・維持」構想という新たな動きを踏まえ、それを概観するとともに、我が国土防衛上の根本的問題を指摘したい。