今年は「改革開放」政策の30周年に当たる。経済の自由化により、中国経済と中国社会は大きく変貌した。

 しかし、社会主義計画経済から市場経済への制度移行はいまだ道半ばにある。「我々は最初から市場経済を建設しようと明確な目標を持っていたわけではない」と北京大学の張維迎教授は指摘する。すなわち、従来の制度では経済も社会もうまくいかないから、受動的に改革を進めたということのようだ。

胡主席、改革・開放路線継続を強調 同路線30周年記念式典で

胡主席、改革・開放路線継続を強調 同路線30周年記念式典で〔AFPBB News

 30年を経過した「改革開放」政策は大きな悩みを抱えている。それは社会主義という看板を下ろせない一方で、私有財産を尊重する市場経済を構築するという制度上の自己矛盾である。それでも、中国の研究者は建前上、社会主義の枠組みの中で市場経済は十分に発展できると主張する。

 これまでの経済成長からすれば、このような主張はまったく間違っているとは言えない。だが、牛乳にメラミンが混入された事件などを見ると、社会通念と企業倫理といった点から、現在の制度のどこかが間違っているのではないかと感じずにいられない。

心の拠り所を失った中国社会

 改革前と改革後とを比較すると、中国社会は経済発展と社会変貌のほかに人間関係も大きく変わってしまった。要するに、人間不信が増幅しているのだ。

 1つの例を挙げてみよう。人民元紙幣の最高額は100元(約1300円)だが、その紙幣を使って買い物すると、必ず店員が客の前で透かしなどをチェックする。日本に在住する筆者は「私を疑っているのか」といつも不快感を覚えるが、中国人のほとんどはこの「措置」に慣れているようだ。ちなみに、改革前はこのようなことはなかった。

 そもそも交換機能を持つ貨幣は信用の固まりである。それに対する不信が増幅するというのは中国社会の病(やまい)が相当なレベルまで進行していることの表れだと言える。

 では、なぜ貨幣への信用が崩れてしまったのだろうか。簡単に言えば、人々にとって信じられるもの、心の拠り所がなくなったからであろう。

結局は根付かなかった社会主義イデオロギー

 物質文明を追求する市場経済では精神的な支えが不可欠である。4000年の歴史を誇る中国では長らく論語など、孔子や孟子といった聖人の教えが心の支えだった。

 それを喪失したのは社会主義中国が建国されてからのことである。何よりも1966年から76年までの文化大革命は中国の古典文化を完全に否定してしまった。学校教育では古典文化が封建社会の迷信として完全に排除された。その代わりに、マルクス・レーニン主義や毛沢東思想が植えつけられたのである。