5月21日、日本列島で広く見られた金環日食。曇天が心配されたが、雲の合間からでも、この壮大なる天文ショーを数多くの人々が体験できたのは何よりだった。
翌22日には、空高くそびえる東京スカイツリーとともに隣接するコニカミノルタ・プラネタリウム「天空」もオープン。一天文ファンとして、世の大いなる神秘への興味が、これからも少しでも長く持続していくことを期待したい。
常に政治に利用されてきた日食
早速夕刊には11月の南半球での皆既日食ツアーの広告が掲載されていたが、皆既日食ともなればなおさら格別。そして、古来、天からの啓示といった考えがある一方で、政治的にも利用されてきた。
1869年8月、クリミア戦争での経済的疲弊からロシアが手放したアラスカを訪れた天文学者ジョージ・デヴィッドソンは、皆既日食が起こることを予言することで、新たなる侵入者を快く思わない先住民の攻撃をかわした。
その時の日食ベルトはサウスダコタ南西部ブラックヒルズと呼ばれるスー族の聖地も通っていた。
スー族と言えば、「どんな偉大なことも、人間よりさらに大きな『大いなる神秘』によって成し遂げられる」と考え、その対話の儀式として「太陽ダンス(Sun dance)」を行う「平原インディアン部族」の代表的存在。
しかし、その時、月に覆われた太陽は古よりよく言われる不吉の予兆たる「黒い太陽」となってしまっていたようだ。
サウスダコタ南部の広大なるバッドランズ国立公園などでロケされた『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(1990)には南北戦争中のスー族と白人軍人の交流が描かれている。
奴隷解放政策を取ったエイブラハム・リンカーン大統領も先住民に対しては非情なる排除方針を示していたが故の悲劇が見て取れる。
そんな苦境にあっても、永久に「グレート・スー・ネーション」とすることを条約で保証されていたはずだったのがこのサウスダコタの地。しかし、1874年、ブラックヒルズで金が見つかったことから、白人たちの不法侵入が頻繁に繰り返されるようになってしまう。