毎月第3土曜日、工場の町、東京・大田区の大森南で百人規模のライブイベントが開かれている。私もしばしばお邪魔させていただく。

 仕掛人は金森茂さん。金森製作所の社長だ。同社は大手メーカーの試作品を手掛ける精密板金加工の会社。業績は良く、今も仕事は非常に忙しいという。

工場の3階がライブハウスに

 第3土曜日の夜。ポスター一枚出ているわけではないが、人々が三々五々、金森製作所の階段を上がってゆく。3階のドアを開けると、耳をつんざくようなエレキの大音響。赤いネオンにミラーボールが回っていて、音楽に合わせてみんなが踊る、踊る。

 曲は1960年代の音楽(いわゆる「シックスティーズ」)が中心だ。エレキ全盛の頃のものだから、最近の“クラブ”の音楽とは違う。

 演奏している会場はNPO法人「スウィングライブ」の事務所だが、普段はローテーブルにパソコンや電話が並ぶ金森製作所の「社長室」だ。

 この部屋は87年、金森製作所が現在地に移ったとき、3階が空いていたので、社員同士が気兼ねなく安く飲める場所にしようと思って作った。だからステージも床も社長以下社員が自分たちで整備した。

 「こうした『社員クラブ』を作った最大の成果は、変わった会社があるなあと近隣の皆さんに知ってもらえたことでしょう」と金森さんは笑う。「大森界隈でこんな設備のある工場なんてありませんでしたから・・・」

 月に1回開放してライブを行うようになったのは99年から。

政策研究大学院大学の留学生らと金森製作所を訪れた時の写真。中央が社長。後ろが筆者。奥にドラムやシンセサイザーが見える

 演奏するのは社員や近隣の音楽好き。「リードギターはプレス工場のベテラン工員、セカンドギターは工具屋の若旦那、ドラムはメッキ工場の工場長、歌っているのは八百屋の娘」といった具合だ。実は、筆者の娘もピアノの弾き語りをやらせてもらった(お耳汚しですいません)。「あまり上手じゃなかったバンドがステージを経るごとにうまくなっていくと、うれしくてね」と金森社長。

 プロのゲストミュージシャンを招くこともあれば、金森さん自ら大森駅などでストリートミュージシャンをスカウトしてくることもあるという。「彼らに、きちんとしたステージで演奏する経験を積ませてあげたい」と金森さん。