かつて日本では「医療ビッグバン」なるキーワードがもてはやされた時代があったことを覚えている方もおられるだろう。

 電子カルテや診療報酬請求業務の自動化といった病院内業務のIT化促進によって病院経営の質が格段に向上する、という意味なのだが、果たして実現できたのだろうか。

IT化が病院経営にもたらしたマイナス点

今年のアジア リーンシックスシグマ(LSS)&プロセスエクセレンス サミットで講演する筆者の眞木和俊氏

 筆者には、この“医療革命”を通じて得たものと失ったものがあるように見える。

 得たものとしては、IT化による患者の利便性向上だろう。完全に解消したとはとても言えないが、少なからず大病院における診察待ちや会計待ちの時間は明らかに改善されてきたと思う。

 診察券による自動精算機や携帯型診察呼び出し機の導入などによって、数時間も待ちくたびれることはなくなってきた。

 またカルテや処方箋の電子化によって、患者情報の取り違いなど初歩的なミスは回避されるようになり、病院間や薬局との情報共有も楽になったようだ。

 その一方で、失ったもの、あるいはやり辛くなったものもある。例えば、ただでさえ「3分診療」と揶揄された診察時のドクターの患者対応ぶりは、ますます悪化したように見える。

 いまだパソコン操作に慣れていないせいもあってか、患者には目もくれずデータ入力や確認のためにパソコン画面しか見ない先生もいる。もしかして苦手な患者コミュニケーションを回避する方便なのか、と勘繰りたくなるほどだ。

 医師の立場に立てば、診療業務が複雑化してミスを発生させないための努力なのかもしれないが、診察行為が対面業務であるのは基本ではないだろうか?

 また救命救急業務においても、功罪を併せ持つ場面を見受ける。

 大都市圏の大手医療機関であれば、手術室の空き状況や救急診療体制をリアルタイムに発信、把握できるシステムを自治体や消防署と連携して構築しているが、救急車のたらい回し事件が後を絶たないのはなぜだろう。

 その一因として、依頼先となる病院の表示が常時“満杯”のままで変化しないということが取りざたされている。

 結局のところ救急隊員が直接病院側と電話で交渉しなければならないため、立派なシステムがあってもこれでは役に立たない。つまり問題の本質は病院側のキャパシティの不足(例えば医師のアンバランスな勤務配置や過重労働)にあって、これを改善しないことには医療提供側の対応が追い付かないのだ。