これまで経営改革の現場で、筆者は「新たに市場・顧客のデータを収集できるようにする」「データを分析して意思決定に必要な情報を提供する」といったことを、企業の方々と共に数多く行ってきた。

 昨今は「ビッグデータ」の時代だと叫ばれている。ビッグデータとは、整理・構造化されていないものも含んだ膨大な量のデータとその活用を意味する。

 だが、データのボリュームがビッグだろうがスモールだろうが、定形であろうが非定形であろうが、昔も今も「その時に存在するデータを分析して活用したい」というニーズは変わらない。

 今回は、そういうニーズに直面している企業に立ちはだかる、現場での「データ活用の壁」を見ていく。企業内で発せられる典型的な「危ない言葉」を紹介しながら解説したい。

危険な言葉(その1):「そんなこと既に知っている」

 全社でマーケティング情報の充実に取り組んできた食品会社A社。その実現のため、全国の支店を教育し、営業の現場で用いるツールを導入した。そして、現場から吸い上げた顧客の各種情報を、業界で公開されているデータと照らし合わせて、各地の地域戦略立案に使おうとした。

 その取り組みが進み、データがある程度充実してきて、これまであまり力を入れてこなかった製品カテゴリーに拡販余地があることが分かってきた。その矢先、各地の主立った支店長からこのような声が聞こえてきた。

 「データは集まったが、これまで知っていたことばかりだった。それが改めて確認できた」

 つまり、このデータは意味がない、自分の知識とノウハウで十分だ、ということだ。

 苦労してデータを集めてきたプロジェクト事務局は、驚きとも怒りともつかない表情に一変した。「すでに知っていたなら、なぜその情報を活用して拡販しなかったのか?」という思いだ。

 データを目の前にして、「はいはい、すでに知ってます」と言ってしまうカルチャーは危険である。いわば「勘と経験」にいまだに支配されている症状だ。まだまだこういった現場は多い。

 本当は、「知っている」のではなく、「断片的に聞いたことがある」+「そうじゃないかなと頭の中でぼんやり考えていた」が正解である(さらに言うと、保身のために自分の情報量をアピールしたいという場合もある)。同じA社において、「実際の営業には役に立たないが、担当が代わった時の引き継ぎくらいには使えるだろう」という言葉も聞かれた。