今年2月26日、アカデミー賞授賞式が、例年通り、ハリウッド&ハイランド・センターで行われた。最多11部門でノミネートされていた『ヒューゴの不思議な発明』(2011/日本では現在劇場公開中)が、作品賞、監督賞など「主要部門」こそ逃したものの、撮影賞、美術賞、視覚効果賞、音響編集賞、音響録音賞といった技術部門を独占する結果となった。

マーティン・スコセッシ監督初の3D作品

ジョルジュ・メリエス

 精力的に作品を撮り続けるマーティン・スコセッシ監督がデジタル技術全開で挑んだ自身初の3D作であるこの映画だ。

 ファミリー向けファンタジーという宣伝文句を聞いてしまうと、ハリー・ポッター・シリーズなどで近年食傷気味の人には劇場に足を運んでもらえないかもしれない。

 しかし、この作品の肝は、映画草創期の特殊効果のパイオニア、ジョルジュ・メリエスへのトリビュート。

 時代を追うことをあえてせず、自分のスタイルに固執したばかりに飽きられてしまい、第1次世界大戦という混乱の中で忘れられていったメリエス。

 そのメリエスが、晩年、パリ、モンパルナス駅の小さな玩具店で淋しく余生を送っている姿を「発見」され、映画人による盛大な祝典が開催されたという事実を、少々ドラマチックに、そして子供目線に焼き直した小説の映画化である。

怪我の功名で映像トリックを発見

 そんなファンタジー映画の祖とも言えるメリエスを描いた作品が技術部門を独占する評価を得たことが、何よりもメリエスへのトリビュートとなるのではないだろうか。

 もともとマジシャンだったメリエスが映画と出逢ったのは、1895年12月、シネマトグラフ・リュミエールの最初の一般公開の時だと言われている。

 当初、シネマトグラフの発明者であるリュミエールの方はそれを単なるおもちゃ程度にしか考えていなかったようだが、可能性を感じ取ったメリエスは、ロンドンでイーストマン・コダックのフィルムを買い込み、翌1896年5月にはさっそく最初の映画撮影を開始している。

 そんなある日、撮影中に機械が故障してしまう。幸いにも早々に修理が完了、撮影を再開したのだが、フィルムを現像してみてビックリ。目前まで進んできた馬車がいきなり霊柩車へと変身する映像となっていたのである。