民主党は、政権を勝ち取った2009年の総選挙の際に、医療崩壊を防ぎ、医療を成長産業とするために「医師数1.5倍」と「医師養成数1.5倍」を実現するとマニフェストに明記していました。2010年2月には「医学部新設へ申請、3私立大が準備 認可なら79年以来」(朝日新聞)との報道もありました。

 一昨年、医師不足により閉鎖した銚子市立総合病院*1の例を見るまでもなく、「医療崩壊の原因は医師不足である。だから、医師の数および養成数を増やせば医療崩壊は解決する」と言われれば多くの人は納得してしまうことでしょう。

 しかし、医師不足だから医師の数を増やせば良いという理屈で医学部を新設することは、実は現状の日本の医療にとっては「百害あって一利なし」なのです(全国医学部長病院長会議が医学部新設に反対する声明を連名で公開していますので、参考までご覧ください)。

そもそも日本の医学部は少ないのか?

 日本には現在80の医学部が存在します。ちなみに米国の医学部は130校ほどです。人口が日本の約1億3000万人に対して米国は約3億人ですから、人口比率の上で日本の医学部の数はすでに十分すぎるのです。

 しかも、既にこの3年間で各医学部の定員を増やすことにより、1200名(医学部12~13校分)、割合にして16%もの医師養成数増加を達成しているわけです。これだけでも、毎年4400人ずつ医師は増加していきます。

 今後は高齢化が進むために医療需要が増大していくのか、それとも日本の人口減によって医療需要は実はそれほど伸びないと見るのか。その予測は難しいものがあります。

 でも、経営再建中のJALですら、不採算路線の削減は様々な反対に遭ってスムーズに進んでいません。いったん医学部を新設してしまったら、投資した設備や従業員のことなどを考えると、「10年経って医者が足りてきたから、必要数を見直して閉鎖統廃合する」なんてことはほぼ不可能でしょう。

現在の医師数でもより高いサービスは実現できるはず

 今の医療崩壊の本質は、医療現場で働く人材が不足しているため、利用者(患者)がサービス面で不利益を被っているということです。

*1:2008年9月に閉鎖された銚子市立総合病院は、公設民営の銚子市立病院として本年5月1日より運営を再開した(編集部注)