仮に60万人が入場したら、警察も制御できない状態になる――。
1日平均40万人の入場者を見込む上海万博。5月1日の開幕を控えて、4月21日にリハーサルが行われた。リハーサルによって明らかになったのは、段取りの悪さと深刻な準備不足だった。
「リハーサル」とは言っても、どこでどんなトラブルが起こるかを事前に予測するために20万人を動員しての「一大実験」だ。イタリア館では入場者が押し合いになりガラスが割れ、イギリス館では一部の入場者が列を崩して乱入したため閉館するなど、日本でも一連のニュースが報道された。
もみくちゃの混雑でも、ニュースでは「みんな満足」
左右に万博会場を見下ろせる盧浦大橋からは「黒山の人だかり」というような状況はうかがえなかったが、実際は、多くの入場者が中国館に近い8号ゲートに集中してもみくちゃになっていた。加熱する場所とそうでない場所と濃淡が分かれたようだ。
ゲートで退場者を待ち構え、ヒアリングしてみると、「入手した地図や会場内での案内板はあったけど、目的地にたどり着くまでが大変だった」とも。会場の広さとともに、地図の正確さ、情報量の不足が見て取れる。
局地的な集中は、当日、11カ所のパビリオンしか見学できなかったことも影響した。「食事は1時間待ち、パビリオンは3時間待ちだった」とぼやく若者もいた。
果たして万博リピーターはどれだけ育つのか。来場者を「また行きたい」という気持ちにさせられるかどうか、開幕後はそれが「見どころ」の1つとなるだろう。
その日の晩の地元ニュース番組では、「パビリオンや地下鉄では、想像以上に待たなくてすんだ」と満足そうに語る市民の顔を報道。ヘリコプターからの中継では、アナウンサーが「上海万博、準備が整いました! みなさんのお越しを待っています!」と締めくくった。
パビリオンの工事は今でも続いている
上海市政府の副秘書長で上海万博の事務協調局局長を務める洪浩氏は、2010年1月に「10~20%のパビリオンは5月の開幕に間に合わないだろう」と発言していた。当時、42の外国のパビリオンや18の企業館の8割が完成に至っていなかった。設計や建設面での問題もさることながら、資金繰り(資金集めに腐心したパビリオンもある)や展示品の到着の遅れも影響していた。
開幕まで10日を切った今でも、パビリオンの工事は続いている。外装工事すらまだ終えていないところもある。「ましてや内装工事が未完成のパビリオンはまだまだある」と会場に出入りするスタッフの1人は打ち明ける。
内陸都市の、さらにその奥からでも引っ張ってきたのだろうか、現場では中国人同士でも通じない中国各地の「標準語」が飛び交う。「建築のド素人ばかりだが、とにかく人手が足りないからかき集めてきた」(前出のスタッフ)。そんな民工(出稼ぎ労働者)たちが毎日徹夜で働いている。