散歩が静かなブームである。手軽な健康増進、安価な暇つぶし策(?)として老若男女問わず、受けているようだ。鉄道ブームも相まって、観光地まで「鉄道+徒歩」で訪れる人も多い。

 近年は町おこしでいろいろ工夫がされていて、思わぬ発見もあって楽しい。現代芸術から戦国武将、漫画のキャラクターに至るまで、各地にあるモニュメント巡りも面白い。

旅行中の散歩はその地を知るのに最適の方法

福井県・敦賀駅近くにある「銀河鉄道999」のモニュメント。散歩しながら見つけた

 実は、国内海外問わず、散歩はその地を知るための基本である。効率よく観光するには、ツアーについているような都市観光で目星をつけてから自分で散歩に出かけるのがいい。

 どこの国でも旅行会社が企画するような都市観光には、大概、博物館や独立の英雄の銅像が立ち並ぶ独立広場観光がついている。

 調べれば分かるような事実の確認など放っておいて、現地のガイドが一生懸命語る地域の英雄や国土の変遷、特に領土が最大だった頃についての説明に耳を傾けるのがいい。

 現地の人々の伝えたい歴史というものが、我々の中にあるスタンダードといかに食い違っているかを知るチャンスだからだ。

 西欧諸国は、「新大陸の発見」以降、世界各地で先住民の征服に明け暮れていた。その頃、東西交流のハブとも言える中近東は彼らにとって異教徒であるイスラム教国家の雄、オスマン帝国一国が支配していた。

 その支配の始まりの頃、バルカン半島にまで進出したオスマン帝国に対してキリスト教社会は巻き返しを図り、多くの英雄たちの活躍で一時的ながら国土回復に成功する。

「串刺し公」と呼ばれていた「ドラキュラ」

モルドバの首都キシナウにあるシュテファン公の銅像

 そんな英雄として有名なのがモルダヴィアのシュテファン公で、現在はルーマニアとモルドバ共和国に分割されたモルダヴィア地方の至る所でその銅像にお目にかかれる。

 そしてもう1人、そのシュテファン公と血縁関係にあり隣接するワラキアを治めていたヴラド公も大活躍した。

 当時の処刑法には残酷なものが多く、人間の串刺し刑というものもポピュラーだったようだが、それを好んでやっていたことからツェペシュ(串刺し公)と呼ばれていた人物である。

 しかし、明らかなる敵であるオスマン帝国だけでなく、自分の統治に不都合な存在であればキリスト教徒の住民をも次々と処刑していったという残忍性も少なからずあったようで、シュテファン公ほどの英雄とまではならなかった。

 その一方で彼をシュテファン公以上の有名人に押し上げたのは、もう1つの呼称「ドラキュラ」であった。父親がドラクル(竜公)と呼ばれていたことから「竜の息子」という意味でつけられたその名は、1897年にブラム・ストーカーが発表した小説と一連の映画により、現代人の間では吸血鬼として認識されている。