中国経済が世界に先駆けて景気回復している。景気が好転している証拠の1つとして、沿海主要都市で工場労働者の募集が再開されていることが挙げられる。
ただし、労働者は集まっていない。それを受けて一部の評論家は、中国では労働力が不足していると論評している。
さらに、一人っ子政策が実施されてきた中国では労働力が不足し、人口ボーナス(高齢者と子供が少なく生産年齢人口が多い状態)は消滅しつつあると言われている。
分かりやすい指摘だが、中国社会の実態に基づいている指摘とは言えない。公式統計では、2009年の失業率は4.3%で、失業者は900万人に上る。大学卒業生の少なくとも200万人は就職できていない。中国で4割の労働力を吸収しているのは、GDPに1割しか寄与していない農業である。
現在、1億6000万人の出稼ぎ労働者が、農村から都市部に出稼ぎしている。農業の労働生産性を上げるためには、さらに2億人の労働者を農村から都市部に移出させる必要がある。したがって、中国で労働力が不足しているという判断は間違っている。
労働市場のミスマッチが生む「民工荒」
中国では、出稼ぎ労働者のことを「農民工」と呼ぶ。そして、工場に農民工が集まらないということを、「民工荒」と表現する。失業者と余剰労働力がたくさん存在する中で、なぜ「民工荒」が起きているのだろうか。
結論を言ってしまえば、中国の労働市場でミスマッチが起きているからである。
右の図を見ていただきたい。この図で示したのは労働市場で起きているミスマッチのメカニズムである。Sは労働の供給曲線である。D1は金融危機以前の労働の需要曲線である。D2は金融危機以降の労働の需要曲線である。SとD1の交点は、金融危機以前の労働市場の均衡状態を表すものである。
金融危機をきっかけに工場は軒並み賃金水準を引き下げ、労働の需要曲線をD1からD2へ下方シフトした。その結果、労働の需要曲線(D)と供給曲線(S)が交差しなくなった。労働市場の均衡が崩れてしまったのである。