先日、中国当局で言論統制・政治プロパガンダを統括している要人と会った。北京五輪以来の再会、昨今の輿論・言論情勢について語り合った。「昨年末の時点で3億8400万人いたネットユーザーが4億人に達したよ」という情報にまずはサプライズ。ここぞとばかりに一番知りたい内実を聞いてみた。
北京五輪でも建国60周年でも言論は大きく制限された
「一昨年の北京五輪以来『安定第一』が最重要視され、特にネット上の言論統制が強化されてきました。建国60周年、軍事パレードも挙行された昨年はより厳しくなりましたよね。2010年、ネット輿論に規制緩和はあり得ますか?」
彼は静かに語る。
「共産党が北京五輪前後、特に60周年記念にかけて輿論に対し引き締めを行なったことは間違いない。規制緩和の可能性は正直なんとも言えない。トップ層ですら決定する権限と能力を持たないほど状況が複雑で、不確定要素も多い。当局の中でも統一の見解・立場はないんだよ」
中国では通常、重要な国家・政治イベントが開催される前後、情報統制が強化される。昨年の建国60周年(10月1日)前、中央政府は「マイナス面の報道があってはならない」という指令をマスコミ関係者に出した。管理職を集めて開いた事前会議では、「北京五輪を経験している皆さんは事情を理解していると思う。
各自自制し、国家の安定を守るべく、適切な報道を徹底するように」とだけ通告した。「不適切な報道」=「共産党を批判するような報道」があれば厳しく処罰するということである。処罰の方法としては、罰金か管理職の左遷が一般的。マスコミ関係者たちは「共産党がいかに素晴らしいかという賛辞の報道をするだけさ」と口を揃えてもらしていた。
政府からの指令内容は絶対保密
2009年8月、「60周年世論対策」の一環として「ネットユーザー実名登録制」に関する指令が出された。以前から検討されてきたようで、事前会議で反対を示したメディアは1社もなかった。同会議に出席した関係者は「指令内容は絶対保密。一切の公開・流出が禁じられている」と筆者に語った。
近年、ネット上での「書き込み」が世論に大きな影響を与えてきた。その原因の1つが、誰でも自由に書き込めて、責任は一切追及されないという「匿名性」にあった。
そこで、当局が実施したのが「実名登録制」である。筆者の知る限り、この政策をもってネット世論を完全に抑えられると思っている役人は1人もいない。