2010年3月3日、化学業界最大手の独BASFと韓国の現代自動車は次世代ハイブリッド・コンセプトカー「i-flow」を共同開発し、ジュネーブ・モーターショーで発表した。両社の幹部がかっちり握手を交わすと、各国から集まったカメラマンやジャーナリストは一斉にカメラのフラッシュを浴びせた。なぜ欧州化学業界の「巨人」は自動車の新興勢力と手を組むのか。経済危機モードから脱出して持続的成長を目指すBASFの世界戦略は、「自動車」と「アジア」がそれを読み解くカギになる。(特記以外の写真は筆者撮影)
現代は「i-flow」に同社初のディーゼル・ハイブリッドエンジンを搭載した。しかし自動車メーカーの自助努力だけでは、燃費改善や環境対策で業界の覇権は握れない。現代は計画初期からBASFに参加させ、その先端技術を随所に採り入れながらコンセプトカー開発に成功した。
燃費改善には車体の軽量化が不可欠になる。現代はシートのフレームにBASFが独自開発した高機能プラスチック部材「ウルトラミッド・バランス」などを採用し、できる限り軽くした。この部材は再生可能原料が60%を占めており、自動車メーカー側は環境保護もアピールできる。
シートには水分を吸収する素材を使い、アジア地域の真夏でも快適な座り心地を実現。内装には赤外線を透過、あるいは反射する顔料を採用したため、ダッシュボードやシートに直射日光があたっても熱くなりにくく、エアコンの消費エネルギーを節減する。
このほか、現代はエンジンの断熱装備やボディーの塗装などにもBASFの技術を導入。ジュネーブ・モーターショーの会場で、現代のトーマス・バークル欧州デザインセンター長はBASFを「理想的なパートナー」と絶賛した。
プラスチック化が進む自動車部品、「ゴルフ」は28キロ使用
「金属からプラスチックへ」――。BASFで高機能プラスチック事業を統括するパフォーマンスポリマー部門プレジデントのウォルフガング・ハプケ氏は、対自動車業界戦略をこの一言で説明する。
ハプケ氏によると独フォルクスワーゲン(VW)の代表車種「ゴルフ」には、1台当たり約28キロものプラスチックなど化学製品が使われている。金額にすれば約850ユーロ(約10万200円)に上り、しかも車両価格に占める比率は年々上昇している。