<私たちには、昔ながらの方法で授かった2人の息子がいるが、彼らが青年期に近づくにつれて、家族にもう1人子どもが──赤ん坊よりも年上の女の子が──欲しいという思いに、私たちは取りつかれた。>
これはデボラ・L・スパー著『ベビー・ビジネス 生命を売買する新市場の実態』(ランダムハウス講談社)の巻末に記された著者自身の言葉である。
2人の息子を持つ夫婦が、家族の安定のために、兄弟の姉となる女の子を養子としてもらおうと考える。こうした内容の発言を聞いて、その意味するところがすぐに飲み込める日本人はほとんどいないだろう。しかし米国においてはごく普通の発想であるらしく、実際にスパー夫妻はロシア生まれの女の子を養子として迎え入れる。
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「養子の輸入大国」とも称される米国の存在なくして、国際養子縁組は成り立たない。
この数年、米国では毎年2万3000件前後の国際養子縁組が取り結ばれている。マドンナや、アンジェリーナ・ジョリーといった著名人が外国から養子を迎えたことでさらに「養子熱」が加速し、1990年代と比べると3倍に増えた。
「養子の輸出元」は、第1位が中国で年間約5500人、2位がグアテマラで約4000人、3位がロシアで約2300人であり、トップ3の顔ぶれはずっと変わっていない。
中国航路を頻繁に利用する人は、20~30組の欧米人カップルが揃いも揃って乳飲み子を抱いて飛行機に乗っている場面に遭遇したことがあるのではないだろうか。
中国では、行政機関によって「養子縁組ツアー」が企画されて、幼い子供を求める夫婦が世界中から参加する。養子を得るためにかかる費用は総額で200万円前後である。
欧州でもフランス、ドイツ、スペインなどは年間1000人を超える養子を外国から迎えているが、やはり米国の数字は突出している。
その根底には、米国自体が移民を受け入れて発展してきた「養子国家」だからとの意識があるのだろう。また、キリスト教による「聖家族」のイメージも依然として根強く、愛によって子供を育みたいとの願いは、文字どおり国境を越えて、世界中から子供を「輸入」するに至ったわけだ。