はじめに
国家は、当面と将来の両方にわたって対処と備えをしなければ、国家と国民の安全と生存を保障することはできない。東日本大震災対応や政局ばかりに目をやっている間に、安心と安全の根幹である防衛力は、中国の大いなる野望と20年来の大増強の前に風前の灯である。
財政が厳しいからと言って堤防の高さを低く設定するのは、本末転倒であろう。防衛力も同じだ。以下は、2010年中国の国防白書の一文である。
中華民族の優れた文化的伝統および「和をもって貴しとなす」という平和理念に揺るぎなく従い、非軍事的手段による紛争の解決、戦争への慎重な対応、戦略上の「非先制攻撃」を主張する。現在と将来にかかわらず、また、どのような水準まで発展しようとも、中国は永遠に覇権を唱えず、永遠に軍事的拡張を行わない。
聖徳太子の心を国防の理念に持ってくるとは、さすがに懐が深い。一方で、情報化条件下における局地戦に勝利することを目標としている。
中国の言う局地戦は、戦略レベルの非先制とは異なり、毛沢東時代からの先制攻撃を奨励した考え方を踏襲していることが軍系の論評から読み取ることができる。
すなわち、局地紛争では、敵の武力攻撃の「兆候」を認識したら第1撃と見なし、機先を制して攻撃することを原則としているようだ。
また、近海防御戦略とは名ばかりで、実態は、第1列島線(防御線)は日本領土であり、第2列島線はグアムを含み米国および日本領土である。他国の領土を防御線とした身勝手な戦略を堂々と言うところに中国の本質がある。
ベトナムの排他的経済水域(EEZ)内では、ベトナムの調査船のケーブルを切断するなど、実力行使をエスカレートさせ、南シナ海の聖域化のために、軍事力行使を含め手段を選ばず、妥協するつもりはさらさらない。
南シナ海で起こることは、やがて東シナ海でも必ず起こる。
尖閣諸島などは、中国を国際法廷に引っ張り出すか、国際社会と協調して日本が毅然として人を送り込み領有権をはっきりと見せない限り、やがて中国に占領され、中国は他国との共同開発により石油の掘削を始めるとともに、対艦・防空ミサイルを配置して拠点とするだろう。
そうすれば、八重山諸島の全域及び台湾の北部は、その影響力下に置かれる。
日本は、遅かれ早かれ中国の覇権に飲み込まれることを是とするか、米国とともに自由な海洋国家として生き抜くか、選択を迫られることになろう。