日本経済の「縁の下の力持ち」といえば、電子部品業界が挙げられる。決して派手な存在ではないが、日本の国際競争力の源泉と言っても過言ではない。日本ケミコンはアルミ電解コンデンサーで世界トップシェアを誇り、国内外の電機・自動車メーカーのほぼ全社が何らかの形で使用している。

 一方、中国をはじめとする新興国の台頭に加え、トヨタ自動車が国際的なリコール問題を起こすなど、「モノづくり大国」日本の先行きは楽観できない。JBpressは日本ケミコンの内山郁夫社長に単独インタビューを行い、電子部品業界の現状や未来戦略について聞いた。(2010年2月18日取材 前田せいめい撮影)

日本ケミコン・内山郁夫氏/前田せいめい撮影内山 郁夫氏(うちやま・いくお)
新潟県出身 1977年宇都宮大大学院卒、日本ケミコン入社 99年材料事業本部新潟工場長 2001年取締役 03年6月から社長

 JBpress 2008年9月のリーマン・ショック以降、電子部品業界も業績が急激に悪化したが。

 内山郁夫社長 振り返ると、当社の業績の底は2009年1月。アルミ電解コンデンサーなど電子部品の販売は前年比50%、生産に至っては30%の水準まで落ち込んだ。部品の素材工場では1カ月止めたところもある。

 セットメーカーが「生産が10~20%下がったよ」と言う時、部品メーカーではその倍ぐらい下がっており、素材はそれよりさらに落ち込んでしまう。今の産業構造では、川上に行けば行くほど影響が大きく出る。

 中国がその後の展開のキーワードになった。日本や米国も景気対策を打ったが、中国は(農村部の家電製品購入に補助金を支給する)「家電下郷」をいち早く打ち出すなどスピードが全く違った。また、日米は財政に余裕がなく「もう止めようか」という議論になったが、中国政府は「これでもか、これでもか」。サブプライムローン問題に端を発した金融危機を、ある意味で中国はうまく利用したのではないか。

「ラッシュオーダー」は中国発、超短納期で部品発注

 ━━ 中国ビジネスの実情を聞きたい。

 内山氏 2009年3月に訪中した際、「ラッシュオーダー(超短納期)」という言葉を初めて聞いた。「どういう意味か」と尋ねると、「超短納期」と言う。その後、業界で急速に使われ始めた。

 中国はアクセルもブレーキも踏むのがもの凄く早い。「行くぞ」となると、売れる売れないにかかわらず、製品を作ってしまう。逆に「駄目だ」となると、徹底的に生産を絞ってしまう。だからいつも、「2週間ぐらいで用意してくれ」と言ってくる。

 5月の連休前、当社は操業を短縮していたが、連休明けに中国から家電下郷関連のラッシュオーダーが入り、特別出勤が必要になった。もちろんフル生産ではなく、まだ7割ぐらい(の稼働率)だったが。テレビなど中国向けデジタル家電が最初に立ち上がり、ようやく夏場から自動車関連の引き合いが増えた。

 それから、台湾のアスース(華碩電脳)や中国勢などが牽引したにネットブックPC。新興国が単なる「世界の工場」ではなく、新製品開発から市場を創造する体制を整えた。2009年はその「元年」と言えるだろう。