今や超高層のツインタワービルなど珍しくもない時代となった。日本では東京都庁ビルが有名だが、世界一の高さを誇るマレーシアの首都、クアラルンプールにあるペトロナスタワーの姿は圧巻である。
産油国に相次ぎ出現する超高層ツインタワー
『エントラップメント』(1998)のハイテク泥棒はミレニアムの変わり目に「コンピューター2000年問題」を利用してこのビルで大金をせしめた。
しかし、現実の世界では翌年、ハイテク装備も何の役にも立たなかった9・11同時多発テロがニューヨークで起こる。
すると、続けざまにこのペトロナスタワーへの爆破予告がなされた。それが単に愉快犯の仕業と思えなかったのは、マレーシアはイスラム教徒の多く住む多民族国家で、急速な経済発展を続ける中、イスラム文化を軽視する社会への反感が鬱積しているからでもあった。
このビルは英語の “Petroleum” に似た「ペトロナス」という名前の響きから推測できる通り、エネルギー関連企業(マレーシア国営石油会社)の所有である。資本をたっぷり貯め込んだエネルギー産業は、今や世界の不動産を次々に買い漁っている。
従って、サウジアラビア、クウェート、カタール、バーレーンといったペルシア湾岸産油諸国にも当然のごとくハイテク高層ビルが立ち並んでいる。アラブ首長国連邦(UAE)のドバイにも世界最高で700メートルもあるブルジュ・カリファなる高層ビルが出来上がった。ドバイの経済バブル破裂を受けてこのビルの完成が危ぶまれたことは記憶に新しい。
人間は神に近い上を目指す
「**ほど高いところに登りたがる」などと揶揄されても、人間は上に行くことにこだわり続けるわけで、高層マンションでも高額なうえに災害時には避難の難しい高層階から順に売れていくというのもそんな心理からだろう。
この現象はいつの頃から始まったことだろう。
ペルシア湾岸地域といえば古代文明発祥の地メソポタミアとも重なる。その中心地でもあったイラクでは、同様に石油資源に恵まれながらも高層ビル建築に励むどころか、イラン・イラク戦争、湾岸戦争から9・11後の「イラク戦争」と戦火の中で日常生活さえ危ぶまれる状況が続いている。
首都バグダッドから90キロ程南方には、メソポタミア文明の中心地の1つとして、紀元前6世紀頃ネブカトネザル2世の治世には古代世界七不思議にも数えられる空中庭園も作られたバビロンの街があった。その遺跡さえもが、駐留する米軍によりダメージが加えられていたことを近年ユネスコが明らかにしている。